一般の皆さまへ

放射線・放射性物質Q&A(4)

 長崎大学
 平成29年3月11日発行
 編集協力 福島民報社
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はじめに
 2011年3月11日の東日本大震災、そして東京電力福島第一原子力発電所の事故から6年がたちました。震災によって被災された方、そして事故によって未だ避難を余儀なくされた多くの方に、改めてお見舞いを申し上げます。この小冊子は、私が2011年12月から2013年10月に福島の地方紙である福島民報に連載した「放射線・放射性物質Q & A」に最新の情報を加え、さらに現在県民の皆様の関心が高い事 項について新たに執筆を加えたものです。本書を通じて、福島の復興がさらに加速されることを祈念いたします。
長崎大学  高 村  昇
CONTENTS :
Q 被ばくの影響子どもと大人でどう違う
Q 自然放射線被ばくによる健康影響は
Q 放射線被ばくでがん増加確認法は
Q 生まれてくる子どもに放射線影響は
Q 放射線の影響は遺伝するのか
Q 放射線被ばくで鼻血は出るのか
Q 低線量被ばくにCT検査、影響は
Q 0.23マイクロシーベルト/時での健康影響は
Q 避難区域に今後帰還しても大丈夫か
Q 原発事故の健康影響報告書改訂版の内容は
Q チェルノブイリとの被ばく線量の違いは
Q 甲状腺がんの種類や特徴は
Q チェルノブイリの甲状腺がん増加はいつ・どんな人に
Q チェルノブイリで甲状腺以外のがん増加は
Q 飲み水にセシウムは含まれているのか
Q 沢水を飲み続けて大丈夫か
Q 自家消費野菜食べる際の注意点は
Q 野生キノコを食べて健康影響は
Q 高頻度に放射性セシウムが検出される山菜の種類は
Q なぜ野生動物から放射性物質が検出されるのか
Q 給食の牛乳に放射性物質が含まれていないか心配
Q 放射性セシウムを含むキノコを食べて健康影響は
Q 食品中のストロンチウム、プルトニウムの濃度は
Q 水道水中の放射性ストロンチウム・プルトニウム濃度は
Q 子どもの甲状腺に結節や嚢胞 原発事故の影響か
Q 他の地域に比べ本県の甲状腺がん診断多いのでは
Q 100人以上が甲状腺がん診断 原発事故の影響か
Q 浜通りの甲状腺がん割合高いか
Q 県外で甲状腺検査 受診可能か
  おわりに
  高村 昇 略歴
Q 被ばくの影響子どもと大人でどう違う
  放射線被ばくによる影響では子どもの方が大人よりも大きいと聞いたことがあります。実際には子どもと大人ではどのような違いがあるのでしょうか。

A 小児は放射線感受性高い 基準設けリスク最低限に
 チェルノブイリ原発事故では、大量に放出された放射性物質、特に放射性ヨウ素によって周辺住民の内部被ばくを引き起こし、事故の4〜5年後から甲状腺がんが増加しました。チェルノブイリで発生した甲状腺がんは、特に事故発生当時、小児だった世代、特に事故当時0歳から5歳といった世代に多発したことが知られています。これは放射性ヨウ素によって特に牛乳が高濃度に汚染され、それを子どもたちが規制なしに飲んでいたこと、そして大人に比べて小児の方が放射線に対する感受性が高いことが原因と考えられています。

 一般的に放射線の影響は、活発に分裂している細胞、組織や個体に、より影響が出やすいことが知られています。チェルノブイリの被災者でも被ばく時の年齢が若い世代で健康影響はより大きかったことがわかっています。

 県内では2011年3月の原発事故直後から放射性ヨウ素や放射性セシウムについて「暫定基準値」を設定し、基準を上回る食品、水に対して出荷や摂取を制限しました。これはチェルノブイリ等の経験を踏まえ、特に放射線感受性の高い小児の被ばくを最低限に抑えることを主眼とした措置です。この結果、福島では住民の被ばく線量は限られていることがこれまでの調査で明らかになっており、国際機関のこれまでの報告書でも、 福島県下では今後、がんの発生率に明確な変化が表れ、被ばくによるがんが増加することも予想されないと結論付けられています。
Q 自然放射線被ばくによる健康影響は
  世界には、自然放射線による被ばく線量が高い場所があると聞いたのですが、そこに住んでいる人には健康影響はないのでしょうか。

A 世界の大地に一定量存在 高線量地域も影響変わらず
 私たちが地球上で生活していると、宇宙から降り注ぐ放射線(宇宙放射線)によって年間約0.3ミリシーベルトの外部被ばくをします。さらに原発事故などとは関係なく世界中で大地には一定量の放射性物質が含まれており、それから出る放射線で外部被ばくをします。同様に、どこに行っても、日常食べている水や食物にはごく微量の放射性物質が含まれているため、食事によって内部被ばくをします。例えば、緑黄色野菜やバナナ、ジャガイモに含まれるカリウムの中には「カリウム40」という放射性物質が存在します。これら自然から受ける放射線(自然放射線)は日本では年間約2.1ミリシーベルト、世界平均では約2.4ミリシーベルトとなります。

 その一方で、世界では、環境中の放射線量が比較的高い場所が存在することが知られています。例えばインド南部のケララ州沿岸に面した地域は、海中から打ち上げられる天然の放射性物質の影響で放射線量が比較的高いといわれています。この地域では人によっては年間10ミリシーベルト以上被ばくしています。単純に考えると、ここで10年間生活した場合、100ミリシーベルト被ばくすることになります。しかし、この地域で調査をした結果、住民の白血病やがんの発生率は、インドの他の地域と比較しても変わらないことが分かっています。このことは、急性の被ばくと慢性の被ばくでは人体に与える影響に違いがあることを示唆しています。
Q 放射線被ばくでがん増加確認法は
  一定量以上の放射線に被ばくすると、がん発症のリスクが増加すると聞きました。実際のところ、放射線被ばくでがん発症が増加したかどうかを科学的に確かめるためには、どのような調査が必要なのでしょうか。

A 100ミリシーベルトで0.5%リスク上昇 集団調査で因果関係証明
 「100ミリシーベルトを一度に被ばくすると、がんで死亡するリスクが0.5%上昇する」という説明を聞かれたことがあると思います。現在、日本人の約3割ががんなどの悪性新生物によって亡くなっています。このため、日本人が1000人いれば、このうちの300人程度は最終的にがんで亡くなることになります。もし仮に、この1000人が100ミリシーベルトの放射線を一度に被ばくしたとすると、これまで300人ががんで亡くなっていたのが、305人ががんで亡くなることになります。これが「0.5%上昇する」ということです。

 一方、この305人のうち、どの5人が放射線被ばくによってがんを発症したかを見分けることは現代の科学ではできません。放射線被ばくでがんが増加したかどうかを明らかにするには、集団を調査することによって、放射線被ばくとがんの発症に因果関係があるかどうかを明らかにする必要があります。この場合、大切なことは、両者の関係を証明するための適切な手法を取ることです。

 具体的には、グラフでいうところの縦軸(がんの発生数)と横軸(被ばくした線量や被ばく時の年齢など)の関係を適切に評価することで、放射線被ばくとがんの発症に因果関係があるかどうかを証明する必要があります。例えば、チェルノブイリ原発事故の場合、放射線感受性の高い、事故当時0〜5歳の世代に甲状腺がんが多発したことから、放射線被ばくとがんの発症に因果関係のあることが科学的に証明されています。
Q 生まれてくる子どもに放射線影響は
  胎児は放射線の影響を受けやすいということを聞いたことがあるのですが、本当なのでしょうか。福島では、事故後奇形児が生まれる割合が増えているのではないかと心配です。

A 現在の線量では問題なし 過度のストレスよくない
 広島や長崎の原爆被爆者の方のケースでは、妊娠初期に高い線量の被ばくをした場合、小頭症の発症例が増えたことが報告されています。しかし、実際に発症したのは200から300ミリグレイを超えるような非常に高い線量を被ばくした胎児であり、県内の状況とは全く異なります。

 放射線についての国際的なガイドラインを定めた国際放射線防護委員会(ICRP)は、胎児期の被ばくについて、「放射線被ばくによる妊娠中絶について、胎児への100ミリグレイ未満の線量は、妊娠中絶の理由と考えるべきではない」と勧告しています。これは広島や長崎の原爆被爆者の方の調査を基に作られた勧告であり、100ミリグレイを下回る被ばくであれば、 生まれてくる赤ちゃんの心配はいらない ということになります。事故発生から現在に至るまで、県内にお住まいのお母さんのおなかの中にいる赤ちゃんが100ミリグレイを上回る被ばくをするとは考えられません。

 実際、県民健康調査では、事故後福島県で生まれた子どもさんの奇形の割合が増加していないかについての調査を行っていますが、事故後もその割合は全国平均と変わらないことが確認されており、福島県における被ばくによる胎児への影響は証明されませんでした。むしろ、過度のストレスは胎児にとって好ましくない環境となる可能性があります。 安心して妊娠、出産をしていただければと思います。
Q 放射線の影響は遺伝するのか
  放射線の影響は遺伝するということを聞いたことがあるのですが、本当なのでしょうか。これから生まれてくる子どもたちに放射線の影響が出るのではないかと心配です。

A 「被爆二世」の疾患増ふえず 次の世代には伝わらない
 広島・長崎の原爆被爆者が被爆後に妊娠し、生まれてきた世代は「被爆二世」と呼ばれています。それぞれの被爆地で被爆二世の方々に健康影響が出ていないかということは大きな問題であり、現在に至るまで長期間にわたる調査が行われてきました。

 調査の結果、現時点で被爆二世について、がんやそれ以外の疾患が増加しているということは認められていません。また、内部被ばくが問題となったチェルノブイリでも原発事故から30年が経過した現時点で、事故後に生まれた世代での健康影響は科学的に証明されていません。

 誤解されがちなのですが、骨髄や甲状腺のような体の臓器細胞(体細胞)が被ばくしても、放射線被ばくの影響は次の世代には伝わりません。放射線被ばくの影響が遺伝する可能性があるのは、精子や卵子といった生殖細胞が非常に高い線量を被ばくし、なおかつそれらの細胞が受精して出産まで至った場合です。現時点で被爆二世に健康影響が認められていない理由はいくつか考えられますが、人間は生涯の出産数が極めて少ないため、高い線量の被ばくによって遺伝子に傷がついた精子や卵子は、受精から出産までたどり着かないことが原因の一つではないかと考えられています。

 さらに、県内での被ばく線量は、外部被ばく、内部被ばくのいずれについても、広島・長崎やチェルノブイリと比べてかなり低く、次世代への影響は考えにくいといえます。
Q 放射線被ばくで鼻血は出るのか
  以前漫画誌に掲載された漫画の中で、東京電力福島第一原発を訪れた主人公らが原因不明の鼻血を出す場面がありました。福島で放射線被ばくにより、鼻血が出ることはあるのでしょうか。

A 一定の線量超えると出現 県内では考えられない
 非常に高い線量の放射線を一度に被ばくした場合、被ばく直後か、数時間〜数日後に症状が出ることがあります。これを放射線被ばくによる「急性放射線症」と呼びます。その一方、放射線被ばくによる発がんなどは、被ばくしてから数年〜数十年後に起きます。「晩発性障害」、あるいは「後障害」と呼びます。

 例えば、500ミリグレイ以上の放射線を一度に被ばくすると、血液細胞をつくる骨髄に障害が起き、白血球や赤血球、血小板が減少するため、感染症が起きやすくなったり、貧血になったり、出血が止まらなくなったりします。1000ミリグレイ(1*グレイ)以上の放射線を一度に被ばくすると、吐き気や全身倦怠感といった全身症状が出ます。これらの急性放射線症の症状は確定的影響と呼ばれ、一定の線量(しきい値)を超える被ばくをした場合には出現しますが、それ以下の線量では出現しません。

 事故直後から現在に至るまで、県内の一般住民は急性放射線症が出るような線量の放射線を被ばくしていません。鼻血は種々の原因によって起こることが知られていますが、少なくとも福島県内における鼻血が放射線被ばくによるものであるとは考えられません。

*グレイ・・・放射線の吸収線量。ヨウ素131やセシウム137が出す放射線(ベータ線、ガンマ線)の場合、1グレイは1シーベルトとなる。
Q 低線量被ばくにCT検査、影響は
  子どもが頭の痛みを訴えたので病院に行ったところ、頭部のコンピューター断層撮影(CT)の検査を受けました。東京電力福島第一原発事故による低線量被ばくに加えて検査を受けても健康影響が出ないか心配です。

A 疑問があれば目的や効果 医師、看護師に相談して
 CT検査は、エックス線を当てて体の横断面を撮影する検査で、普通の単純エックス線検査では詳しく分からないような病変を描出することができるため、医療の現場で幅広く用いられています。現在、日本は世界で最もCTが普及している国で、人口100万人当たりのCTは約90台と、アメリカやイギリスなど他の先進諸国より圧倒的に高くなっています。

 撮影する部位によって異なりますが、頭部CT検査を1回すると、平均で3〜4ミリシーベルト、つまり3000〜4000マイクロシーベルト程度の外部被ばくをします。このように医療行為で被ばくすることを医療被ばくといいますが、これまでの研究結果によると、このレベルの線量を1回被ばくしたことによる健康影響は科学的に証明されていません。

 国際的な放射線防護の基準を作る国際放射線防護委員会(ICRP)は「医療被ばくによる線量の上限を定めるのは適切ではない」と勧告しています。なぜなら医療で放射線を利用することによる患者の利益が、被ばくによる不利益を上回ることを前提としているからです。

 その一方で放射線による検査や治療をする医師側が、その検査や治療を受ける人に本当に利益があるのかを熟慮する必要があることは当然です。今後、お子さんが放射線による検査や治療を受ける際、疑問があれば、目的や効果、どのくらいの線量を被ばくするかなどを医師や看護師に聞いてみるとよいでしょう。
Q 0.23マイクロシーベルト/時での健康影響は
  福島県下では除染しても空間線量率が0.23マイクロシーベルト/時を下回らない地域がありますが、このような場所で一年間生活した場合、健康への影響はどうなのでしょうか。

A 健康に影響みられない 事故状況で線量限度変える
 0.23マイクロシーベルト/時というのは、1日のうち屋外に8時間、木造の屋内に16時間滞在したとして、1年間に1ミリシーベルトの追加被ばくをする目安の線量率です。年間1ミリシーベルトというのは、国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告する、平時における公衆の追加被ばく線量限度です。しかしながら、年間1ミリシーベルトを超えた線量を被ばくしたからといって、健康影響がみられるわけではありません。よく言われるように、100ミリシーベルトを超えるような急性被ばくをした場合には、がんになるリスクが上昇することが、また500ミリシーベルトを超えるような線量を一度に被ばくすると骨髄細胞の減少といった急性症状が起こることが知られています。ICRPが推奨する1ミリシーベルト、というのはこのような科学的知見を踏まえたうえで、平時にはなるべく追加の被ばくを抑えるという防護の考え方によるものです。さらに重要なことは、ICRPは6年前の東京電力福島第一原発事故のような放射線災害が発生した場合、事故が継続している間は年間100から20ミリシーベルトの間でできるだけ低いレベルで、事故が収束した後には20ミリシーベルトから徐々に事故前のレベルに戻すことを勧告しています。このように放射線災害が発生した際には、住民への健康影響が出ないように、事故の状況に従って被ばく線量の限度を変化させていくことが、国際的にも認められています。
Q 避難区域に今後帰還しても大丈夫か
  現在避難している町村では特例宿泊や準備宿泊が行われていますが、宿泊している住民の中には年間1ミリシーベルトを超えるような線量の方もいると聞きました。今後帰還しても大丈夫なのでしょうか。

A がん発症リスク下回る線量 線量結果と意味は自治体窓口へ
 現在も避難を続けている自治体の避難解除準備区域と居住制限区域において、除染が完了した地域を中心に住民の特例宿泊や準備宿泊が行われています。一方で、宿泊されている住民の方に貸し出された個人被ばく線量計を解析すると、年間あたり1ミリシーベルトを超える線量に相当するケースもあります。

 国際放射線防護委員会(ICRP)は、「平常時における一般公衆の線量限度を年間1ミリシーベルト以内とすること」と勧告しています。その一方でICRPは東京電力福島第一原発事故のような放射線災害が発生した際には「年間100〜20ミリシーベルトの範囲のなるべく低いレベルの被ばく線量で抑える」こと、いったん災害が収束した後には「年間20〜1ミリシーベルトの範囲で徐々に被ばく線量を下げていく」ことを勧告しています。これは、100ミリシーベルトを上回る被ばくでは、がんの発症リスクが増加するということを踏まえたうえで、事故が継続している際にはそれをなるべく下回る被ばく線量になるように、その後の復旧期では除染等を行うことで徐々に被ばく線量を平常時のレベルに戻していくように、ということです。1ミリシーベルトというのは平時に放射線から身を守るための防護の基準であって、これを超えたら健康影響がみられるというものではありません。特例宿泊や準備宿泊の際に線量計を装着された際には、線量の結果とその意味を自治体の担当窓口等で聞かれるとよいと思います。
Q 原発事故の健康影響報告書改訂版の内容は
  原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が、平成28年に東京電力福島第一原発事故の健康影響に関する報告書の改訂版を出版したということですが、どのような内容になっているのでしょうか。

A 前回報告書の知見に変更なし 日本語訳報告書ネット上に公開
 UNSCEARは2013年に東京電力福島第一原発事故の健康への影響に関する報告書を公表し、福島県下では事故による被ばくの影響で死亡したり、深刻な病気になったりした事案は報告されておらず、今後、がんの発生率に明確な変化が表れ、被ばくによるがんが増加することも予想されないと結論付けています。UNSCEARは2016年に、上記の報告書作成後に報告された新たな調査結果を勘案し、報告書の改訂版を出版しました。この中でUNSCEARは、住民の外部被ばく、内部被ばく線量の調査結果や福島県民健康調査で行われている甲状腺検査の結果など、新たに明らかになった調査結果を解析し、「評価された新規情報源の内、大部分が2013年報告書の主要な仮定の一つまたは複数を追認するものであり、2013年報告書の主要な知見に影響を及ぼしたり、異議を唱えたりするものはなかった」としています。

 一つの研究では、その対象人数や手法などの限界があり、それだけで結論を出すことができないことが往々にしてあります。そのため個々の科学論文の妥当性を評価し、そのうえで事故による健康影響を総合的に評価するのは国際機関の重要な役割であり、今後も定期的にこのような報告書が作成されることが予想されます。今回のUNSCEARの報告書は日本語に翻訳されてインターネット上に公開されていますので、興味のある方はぜひ一度ごらんになってみてください。
Q チェルノブイリとの被ばく線量の違いは
  東京電力福島第一原発事故によって放出された放射性物質の量はチェルノブイリ原発事故の7分の1程度という話は聞きますが、実際に福島県民の被ばくをした線量は、どのくらいに相当するのでしょうか。

A 外部被ばくが10分の1以下に ヨウ素内部被ばくさらに低く
 県の県民健康調査による「基本調査」では、問診票を基にした外部被ばく線量を推計しています。平成28年9月30日現在で46万3000人余りから回答が寄せられ、その結果、平均で外部被ばく線量は0.8ミリシーベルト程度であったと推定されています。

 チェルノブイリ原発事故の場合、ウクライナの避難者の平均が20ミリシーベルト、ベラルーシ共和国の避難者の平均が30ミリシーベルト程度ですので、外部被ばくに関しては、本県のケースではチェルノブイリの10分の1以下であったと考えられます。

 また、内部被ばく、特に原発事故後初期のころの放射性ヨウ素による甲状腺の被ばく線量に関しては、チェルノブイリでは被災した小児の甲状腺の被ばく線量の中央値がベラルーシで560ミリシーベルト、ウクライナで770ミリシーベルト程度だったのに対して、事故直後、いわき、川俣、飯舘の市町村で約1000人を対象に実施した甲状腺被ばく線量の調査では、最大で1人だけが43ミリシーベルトで、90%近くの小児の被ばく線量は20ミリシーベルト未満でした。このため、放射性ヨウ素の内部被ばくに関しては、本県ではチェルノブイリの10分の1よりもずっと少なかったと考えられます。

 このことからも、原発事故による住民への健康影響は考えにくい、というのが専門家や原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)といった国際機関の一致した考えです。
Q 甲状腺がんの種類や特徴は
  チェルノブイリ原発事故で子どもの甲状腺がんが多発したため、東京電力福島第一原発事故の影響で県内でも甲状腺がんの発症が懸念されています。甲状腺がんには、どんな種類があり、どんな特徴があるのでしょうか。

A 形態から4種類に分かれ 他と比べてゆっくり発育
 甲状腺がんは、その組織型、つまり顕微鏡で観察したときの形態から、乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、そして未分化がんの四つに大きく分けられます。その他、甲状腺由来の細胞ではありませんが、リンパ腫という血液系の腫瘍が発生することもあります。

 このうち、甲状腺がんの8割近くを占めるのが乳頭がんです。乳頭がんは文字通り顕微鏡で観察すると、乳頭の形のようにがんが増殖しているのが観察されるもので、30代以降の女性に多く見られます。症状としては、喉にしこりが触れる以外にあまり特徴的な症状はありませんが、声がかれたり、喉の痛み、嚥下障害が見られることがあります。最近では超音波検査(エコー検査)が発達したこともあり、本人が気付かないうちに、健康診断の超音波検査で偶然発見されることがあります。

 甲状腺乳頭がんは、他の臓器を含めた全てのがんと比較しても、ゆっくりと発育するため、非常に小さな、数ミリ程度の甲状腺がんが発生しても、気付かずに過ごすことがしばしばあります。

 過去の調査で、亡くなられた人の体を解剖して甲状腺乳頭がんがどのくらいの割合で見つかるかを調べたところ、国によって多少の違いはありますが、1〜2割程度の人に甲状腺乳頭がんが発見されたと報告されています。つまり、甲状腺乳頭がんは比較的、発生頻度が高く、しかも、その多くが発生に気付かないまま、生涯を全うされている、ということな のです。
Q チェルノブイリの甲状腺がん増加はいつ・どんな人に
  チェルノブイリで甲状腺がんが上昇したということですが、事故後どのくらいから、どのような人たちに増加したのでしょうか。

A 事故後約5年から小児で増加 因果関係の科学的検討が重要
 福島における放射線被ばくと甲状腺がんとの関連を考えるとき、チェルノブイリとの比較等を通じた、因果関係の検証がきわめて重要です。チェルノブイリ事故の影響を受けたベラルーシ共和国は、事故前から国全体でがん登録(がんと診断された症例を国家レベルで登録するシステム)が存在していました。このベラルーシ共和国のがん登録を調べたところ、事故が発生した1986年から1989年の4年間で、事故当時0歳から15歳だった世代で甲状腺がんと診断されたのは25例でした。その後、同じく事故当時0歳から15歳だった世代で甲状腺がんと診断されたのは1990年から1994年(事故後5年から9年)では431例、1995年から1999年(事故後10年から14年)で766例、2000年から2003年(事故後15年から18年)では808例と増加が見られています。特に、甲状腺がんの増加は事故当時0歳から5歳であった世代で1990年(事故後5年)から顕著に増加しており、この年齢群が放射線被ばくによる影響が多かったことがわかります。しかもこの傾向は事故後4年から10年後に顕著であり、事故当時の年齢が高い群に甲状腺がん・がん疑いと診断された症例が多く見られている福島とは、その状況が大きく異なることがわかります。

 今後も引き続き、福島県の将来を担う世代の健康を見守ることが大切ですが、チェルノブイリとの発症年齢の比較などを行うことで、因果関係について科学的に検討することが極めて重要であると考えられます。
Q チェルノブイリで甲状腺以外のがん増加は
  チェルノブイリ原発事故が発生した際の放射線被ばくの健康影響で、周辺の住民に甲状腺がんの発症が増えたことは知られています。それでは甲状腺以外でのがんの発症については増加したのでしょうか。

A 科学的に証明されず 継続的な評価が必要
 チェルノブイリ原発事故の影響で周辺住民に甲状腺がん、特に小児甲状腺がんが多発しました。事故発生当初の放射性ヨウ素の内部被ばくで、ヨウ素が集積しやすい甲状腺が高い線量の内部被ばくを受けたためと考えられています。

 世界保健機関(WHO)は2016年、事故後30年を契機としてチェルノブイリ原発事故による健康影響に関する報告書のアップデートを行いました。この中でWHOは、「事故後数カ月で汚染地域に住んでいた小児が放射性ヨウ素によって汚染された牛乳を飲むことで被ばくし、その後汚染した三カ国で11000人以上が甲状腺がんと診断された」と指摘しています。

 その一方で、WHOや他の国際機関の報告書でも甲状腺がん以外の固形がんや白血病などの悪性疾患が住民の間で増加したということは認められていません。つまり、これまでにチェルノブイリ周辺住民で甲状腺がん以外のがんの増加は科学的に証明されていないのです。

 広島や長崎の原爆の被爆者では白血病や種々の固形がんが増加したことが科学的に証明されています。広島、長崎が原子爆弾による全身の外部被ばくが主であったのに対し、チェルノブイリの場合は放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばくが主であり、被ばく形態が違うことによって、がん発症への影響が異なってきたと考えられます。しかし、チェルノブイリでは事故当時小児だった世代を中心に、今後も住民の健康影響を継続的に評価していく必要があります。
Q 飲み水にセシウムは含まれているのか
  東京電力福島第一原発事故発生後、未だに水道水を飲むのをためらってしまいます。ダムの底の土から放射性セシウムが検出されたというニュースもあり、本当に水道水は安全なのだろうかと心配ですが、大丈夫なのでしょうか。

A ろ過され水道水からは ほとんど検出されない
 6年前の事故の際、水道水から暫定基準値を上回る放射性ヨウ素が検出されました。これは水に溶けやすい資質をもつ放射性ヨウ素が貯水場の水に溶けたため、水道水から検出されたのです。一方、放射性セシウムはこれまで水道水からは検出されていませんが、これは放射性セシウムがろ過されやすい物質であることに関係しています。

 一般的な国内の上水道は、貯水場にためた水をさまざまな方法でろ過し、それを消毒してから水道水として使用しています。ダムの底の土に吸着している放射性セシウムも、このろ過の過程でほとんどが取り除かれてしまうため、水道水からは検出されにくいのです。

 一方、井戸の場合、ふたをしていれば大気中の放射性セシウムが降ってきてもブロックされますので、井戸水の中に入ることはありません。地表の放射性セシウムが土中に染み込んでいくことによって井戸水に入るのではないかと心配される方がいるかもしれませんが、放射性セシウムは土に強く吸着して、表面にとどまることが分かっています。このため、地中深くに移動することはなく、井戸水にまで達することはほとんどありません。

 県は、水道水はもちろん、井戸水や伏流水の放射性セシウム濃度の測定結果をホームページで公表しています。これから帰還する地域を含め、お住まいの地域で水道水や井戸水などの状況がどうなっているのかを、一度確かめられ るとよいでしょう。
Q 沢水を飲み続けて大丈夫か
  飲料水をはじめとして生活水に自宅近くの沢水を長年使ってきました。東京電力福島第一原発事故で山林にも放射性セシウムは飛散しましたが、その影響は出ないのでしょうか。このまま飲み続けていいのか心配です。

A 飲料水の基準値を下回り 飲んでも健康に影響ない
 環境省は平成27年に飯舘村や大熊町などの避難区域で実施した沢水の水質調査結果を公表しています。その結果、153地点のうち1地点のみ放射性セシウム(セシウム137)を検出しましたが、濃度は1リットル当たり1.2ベクレルで、国が定める飲料水の基準値である「1リットル当たり10ベクレル」を大きく下回っていました。

 検出されたのは、沢水そのものに原因があるというよりも、むしろ沢水に含まれていた微量の土に放射性セシウムが含まれていたためで、具体的には、雨が降るなどして放射性セシウムを含んだ沢の底の土や泥が舞い上がり、それが沢水の中に混ざったのではないかと考えられます。

 さらに、今回検出された沢水中の放射性セシウムも極めて低い値であり、飲料水としての基準値も下回っています。このため、通常の生活用水、飲料水として使用したとしても、健康に影響が出るとは考えられません。

 また、放射性セシウムは、水道水からは検出されていません。これは、放射性セシウムがろ過されやすいという性質があるため、水道水をろ過する過程でほとんど取り除かれてしまうためです。同様に井戸水も、ほとんどの場合はふたをしていますので、原発事故で飛散した放射性セシウムの混入はブロックされますし、地表の放射性セシウムが土中に染み込んで井戸水に入ることもほとんどありません。
Q 自家消費野菜食べる際の注意点は
  東京電力福島第一原発事故以降、自家消費野菜に含まれる放射性セシウム濃度が気になります。どのような点に注意すればよいでしょうか。

A 市町村で簡易分析実施 心配な人は一度測定を
 6年前の原子力発電所事故直後、牛乳や水道水以外に葉物野菜からも放射性ヨウ素が検出されました。これは、事故によって放出された放射性ヨウ素が地面に落ちてきた際、葉を広げていた野菜に付着したためです。ただし放射性ヨウ素は半減期が短いため現在、野菜をはじめとした食物から検出されることはありません。

 一方、放射性セシウムについては、現在も基準値が設定されており、放射性物質検査を実施しているため、これを超える野菜や他の食材が市場に流通することはありません。自家消費野菜についても、食用の山菜やキノコ類と同様、簡易分析を行う体制が整っており、各市町村の公民館や集会所などで検査が実施されています。長崎大がサテライトオフィスを設置している川内村では公民館に食品検査場が設置されており、住民の方が作られた野菜等に含まれる放射性セシウム濃度を測定できます。平成25年から年の間に4080の野菜が検査されていますが、このうち放射性セシウムが検出されたのは0.1パーセントにあたる5検体のみで、現在ではほぼ検出されていません。現在、野生のキノコやイノシシなどと比較しても、野菜から放射性セシウムが検出される頻度は極めて低くなっています。ただもし自分で作った野菜が気になる場合には、お住まいの市町村に問い合わせて、一度測定してみるとよいと思います。
Q 野生キノコを食べて健康影響は
  野生のキノコでは高頻度に放射性セシウムが検出されるそうですが、数回食べただけで健康影響が出るものなのでしょうか。また、市場に出回っているキノコは大丈夫なのでしょうか。

A 数回食べても影響考えにくい 流通しているものは問題なし
 チェルノブイリ原発事故の経験からも、キノコ類に放射性セシウムが集積しやすいことが知られています。平成25年から長崎大は川内村に設置したサテライトオフィスで、村内で採れた野生のキノコに含まれる放射性物質の測定を毎年行っています。

 その結果、2015年に採れた野生のキノコでも、約9割で現在の基準値である1キロ当たり100ベクレルを上回る放射性セシウムが検出されています。それでは、基準値を超えたキノコを食べると、どのくらい内部被ばくをするのでしょうか。例えば、1キロ当たり200ベクレルの放射性セシウムを含むキノコを1年間、毎日食べ続けたとしても被ばく線量は200マイクロシーベルト、つまり0.2ミリシーベルト程度ということになりますので、胸のレントゲン写真4回分程度、ということになります。

 意外と少ない線量と思われるかもしれませんが、これは現在の基準値が、内部被ばくが年間で1ミリシーベルトを超えないために、かなり厳しく設定されているためです。このため、引き続き放射性セシウムの測定結果に注意を払う必要はありますが、数回基準値を超えるキノコを食べたとしても、健康に影響が出るわけではありません。

 一方で、市場に出回っているキノコ類はハウス栽培で作られたものが多い上、放射性物質の濃度に関する検査を受け、基準値を下回っていることが確認されているため、まったく問題ありません。
Q 高頻度に放射性セシウムが検出される山菜の種類は
  山菜の中には高頻度に放射性セシウムが検出されるものがあるそうですが、どのようなものに多いのでしょうか。また健康への影響はどうなのでしょうか。

A フキやウドほぼ検出されず 野生の山菜は一度検査を
 山菜は、キノコほどではありませんが、比較的高頻度に放射性セシウムが検出されることがわかっています。長崎大がサテライトオフィスを設置している川内村には食品検査場が設置されており、住民の方が採取した野生のキノコや山菜に含まれる放射性セシウムの測定を行っています。

 その結果、2015年に採れた野生の山菜では、約1割で現在の基準値である1キロ当たり100ベクレルを上回る放射性セシウムが検出されています。放射性セシウムは山菜の種類によって検出される頻度が異なり、フキやウドではほとんど検出されませんでしたが、タケノコやワラビでは1割近くで、タラノメやゼンマイでは半分近くで、コシアブラではほとんどで基準値を超える放射性セシウムが検出されました。

 一方で、基準値を超えた山菜を数回食べたとしてもそれによる内部被ばく線量は比較的限られています。川内村で採れた山菜のうち、基準値を超えたものを一年間食べ続けたとしても、内部被ばく線量が1ミリシーベルトを超えることはなく、健康影響があるとは考えられません。これは現在の基準値が、内部被ばくが年間で1ミリシーベルトを超えないために、かなり厳しく設定されているためです。ただ、なるべく被ばくする線量を抑えるという観点から、野生の山菜の中で、比較的放射性セシウムが高頻度に検出されるものを採取したときには、一度食品検査場等で測定してみるとよいと思います。
Q なぜ野生動物から放射性物質が検出されるのか
  東京電力福島第一原発事故以降、現在までイノシシなどの野生動物の肉から放射性物質が検出されていると聞きます。家畜の肉からは検出されることはないのに、どうしてでしょうか。

A 土を飲込むため濃縮 気になれば実際測定を
 長崎大がサテライトオフィスを設置している川内村では、食品検査場が設置されて住民の方が持ち込んだ食材中の放射性物質を測定することができます。2013年と2014年に測定したイノシシやキジといった野生動物の肉からはほぼ9割で基準値である1キログラム当たり100ベクレルを超える放射性セシウムが検出され、現在でも比較的高頻度で検出されます。

 イノシシは雑食性で、ドングリやミミズなどを土ごと飲み込んで食べることが知られています。ミミズには比較的放射性セシウムが濃縮しやすいことが考えられていますし、それに加えて表層に放射性セシウムが吸着した土を飲み込むことによってイノシシに放射性セシウムが濃縮されやすいのではないかと考えられます。

 現在、市販されている肉類や乳製品といった畜産品については検査体制が整っていますので、基準値を超える放射性セシウムが含まれるようなものが流通することは考えにくい状況ですが、イノシシやキジなどの野生動物からは比較的高い濃度の放射性セシウムが検出されることがあります。自分で狩猟したもの、あるいはもらった野生動物の肉が気になれば、実際に測定をされてみるのもよいと思います。

 その一方で、基準値を超える放射性セシウムを含む野生動物を数回食べたとしても、それによる内部被ばく線量は限られています。これは、現在の基準値が非常に厳しいレベルで設定されているためです。
Q 給食の牛乳に放射性物質が含まれていないか心配
  東京電力福島第一原発事故発生後、食品に含まれる放射性物質の問題から、子どもの学校給食が心配です。特に牛乳に放射性物質が含まれているのではないかと心配です。大丈夫でしょうか。

A 本県では定期的に検査 昨年の調査も検出なし
 平成23年3月の事故直後、牛の原乳から暫定基準値を超える放射性ヨウ素が検出されました。放射性ヨウ素は牛乳に濃縮しやすいことが知られており、昭和61年のチェルノブイリ原子力発電所事故では、事故直後、発電所から飛散した放射性物質のうち、特に放射性ヨウ素が水から牧草を介して牛が摂取したことで牛乳に濃縮しました。この汚染された牛乳を小児が摂取することで放射性ヨウ素が体内に入り、甲状腺に濃縮することで高い線量の内部被ばくを引き起こし、その後甲状腺がんが増加しました。ただ、放射性ヨウ素は半減期が短く、現在福島でも原乳をはじめとする食品中で検出されることはありません。

 一方、放射性セシウムは野生のキノコやイノシシなどの野生動物に濃縮しやすいことが知られていますが、牛乳には濃縮しないことが分かっています。現在までのところ、基準値を超える放射性セシウム濃度を検出した牛乳は福島県下では報告されていません。また福島県では定期的に、実際に提供された学校給食の1食分丸ごとについて検査を行い、どの程度放射性物質が含まれているか継続して評価していますが、平成28年4月から11月に行った調査では2581食分の検査を行い、放射性セシウムは全てのサンプルにおいて検出されませんでした。

 学校給食は児童の健やかな発育だけでなく、日常生活における食事について正しい理解を深めるためにも大切なものです。安心して食べていただければと思います。
Q 放射性セシウムを含むキノコを食べて健康影響は
  現在、食品中の放射性セシウムの基準値は1キログラム当たり100ベクレルと定められていますが、では100ベクレルの放射性セシウムを含むキノコを一年間毎日食べたら健康影響はみられるのでしょうか。

A 通常摂取量で影響みられない 市場に出回るキノコ問題なし
 仮に、100ベクレルのセシウム137を含むキノコを日本人のキノコの平均摂取量である17.6グラム、一日食べたとすると、内部被ばく線量は約0.05マイクロシーベルト、一年間毎日食べたとすると約20マイクロシーベルト(0.02ミリシーベルト)内部被ばくすることになります。この線量は、胸のレントゲン写真を一回撮影するときの被ばく線量の半分以下であり、100ベクレルのセシウム137を含むキノコを一年間食べ続けたとしても、発がんのリスクが上昇されるとされる100ミリシーベルトや、国際放射線防護委員会(ICRP)が定める平時の公衆の線量限度である1ミリシーベルトを大きく下回ります。ですから、100ベクレルの放射性セシウムを含むキノコを一年間毎日食べたとしても健康影響はみられません。

 意外と少ない線量と思われるかもしれませんが、これは現在の基準値が、内部被ばくが年間で1ミリシーベルトを超えないために、かなり厳しく設定されているためです。このため、野生のキノコや山菜など、現在も放射性セシウムが検出されやすい食材については注意を払う必要がありますが、数回基準値を超えるキノコを食べたとしても、健康に影響が出るわけではありません。

 また、市場に出回っているキノコ類はハウス栽培で作られたものが多い上、放射性物質の含有量に関する検査を受け、基準値を下回っていることが確認されているため問題ありません。
Q 食品中のストロンチウム、プルトニウムの濃度は
  県による食品中の放射性物質検査では、放射性セシウムの数値が新聞に載っていますが、放射性ストロンチウム、プルトニウムについての記載は目にしません。これらの物質の食品中の濃度はどうなっているのでしょうか。

A 一昨年全国15地域で測定 流通食品の安全性担保
   ガンマ線とベータ線を出す放射性ヨウ素や放射性セシウムに対して、放射性ストロンチウムやプルトニウムはそれぞれベータ線、アルファ線のみを出すという特徴があるため、市町村の食品検査場では簡単に測定できません。一方これまでの調査で、6年前の事故の際に放出されたストロンチウムやプルトニウムの量はごく限られていたことがわかってきています。

 厚生労働省はこれまでも定期的に、福島県を含む全国の食品中のストロンチウム、プルトニウム濃度の測定結果を公表しています。平成27年に発表された報告では、本県の浜通り、中通り、会津を含む全国15地域で実際に市販されている食品、飲料水に含まれている放射性ストロンチウムおよびプルトニウムの測定が行われています。その結果、放射性ストロンチウムは210サンプルのうち2サンプルで検出されましたが、いずれも平成23年3月の東京電力福島第一原発事故以前と同じレベルであり、プルトニウムは全てのサンプルにおいて検出限界値未満でした。

 放射性ストロンチウムやプルトニウムは大量に摂取すると内部被ばくの原因となりますが、これまでの調査から流通している食品については放射性セシウム同様、ストロンチウムやプルトニウムについても十分に安全性が担保されていると考えられます。これまでどおり放射性セシウムに関する対策をきちんとしておけば、放射性ストロンチウムやプルトニウムに関する対策も十分取れると考えられます。
Q 水道水中の放射性ストロンチウム・プルトニウム濃度は
  水道水の放射性物質検査で、放射性セシウムが含まれていないとの結果はよく耳にしますが、放射性ストロンチウム・プルトニウムが含まれていないか心配です。今後水道水を飲んでも大丈夫でしょうか。

A ストロンチウム安全範囲内 プルトニウムは検出されず
   ガンマ線とベータ線を出す放射性セシウムに対して、放射性ストロンチウムやプルトニウムはそれぞれベータ線、アルファ線のみを出すという特徴があるため、放射性セシウムと比較すると簡単には測定できません。

 福島県では毎年水道水中の放射性ストロンチウムとプルトニウム濃度を測定しています。平成28年には県内の水道原水23地点で水を採取し、放射性ストロンチウムとプルトニウムを測定しています。

 その結果、放射性ストロンチウムのうちストロンチウム90はすべての地点で検出されましたが、水道原水の最大濃度は1リットル当たり0.0018ベクレルと極めて微量で、事故前の全国データの分布の範囲内におさまっていました。また、プルトニウムは全ての地点において検出されませんでした。

 仮に、最も高い濃度のストロンチウム90を含む水を幼児が毎日1リットル、1年間飲んだとしても、内部被ばく線量は0.048マイクロシーベルトと極めて限られた線量にしかなりません。

 放射性ストロンチウムやプルトニウムは大量に摂取すると内部被ばくの原因となりますが、以上の調査からは食品と同様、水についても放射性セシウム同様、放射性ストロンチウムやプルトニウムについても十分に安全性が担保されており、安心して飲用できます。放射性セシウムに関する対策をきちんとしておけば放射性ストロンチウムやプルトニウムに関する対策も十分に取れると考えられます。
Q 子どもの甲状腺に結節や嚢胞 原発事故の影響か
  県民健康調査の甲状腺検査では、かなりの子どもで結節や嚢胞が見つかっていますが、これらは事故の影響ではないとされています。本当なのでしょうか。

A 原発事故で増加ではない 「 A2」判定は詳細検査いらず
   甲状腺の超音波検査(エコー検査)で、5ミリ以下のしこり(結節)や20ミリ以下の嚢胞が発見され、「A2」判定を受けた子どもは、ほとんど甲状腺嚢胞が見つかったケースです。甲状腺嚢胞というのは、甲状腺の中に液体の入った袋がある状態で、生まれつきある場合もありますし、一時的に現れて成長とともに消えていく場合もあります。甲状腺嚢胞は超音波検査をすると多くの人に見られ、子どもでも決して珍しくありません。

 特に、超音波装置の画像の品質が向上した現在では、以前の装置では見つけることができなかった、極めて小さな嚢胞の発見が可能になり、多くの子どもに嚢胞が指摘されているのです。実際に、長崎、山梨、青森の三県で福島と同じ超音波装置を用いて子どもの甲状腺検査を行ったところ、甲状腺嚢胞の頻度は福島と同じか、むしろより高い頻度で見つかることが明らかになりました。このことからも甲状腺嚢胞は原発事故によって増加したのではないといえます。

 嚢胞は充実部分を伴っていないものは良性と考えてよく、治療の対象となることはほとんどありません。一方、嚢胞の中に充実部分を伴っているものは、まれに悪性の場合がありますので、「嚢胞」ではなく「結節(しこり)」として、液体部分も含め5.1ミリ以上で詳細な二次検査が必要な「B」判定とされます。ですから「A2」判定の子どもは現時点で詳細検査を受ける必要はありません。
Q 他の地域に比べ本県の甲状腺がん診断多いのでは
  県民健康調査で行われている甲状腺検査で、これまで 1 0 0 人を超える方が甲状腺がん、あるいはがんの疑いと診断されたと聞きました。この数は、他の地域に比べると明らかに多いように思うのですがどうでしょうか。

A 高精度の検査「潜在がん」発見 単に本県の発症率高いと言えず
   福島県における甲状腺がんの発症率は全国平均よりも高い、と報道されることがありますが、本当にそうでしょうか?ここでいう「甲状腺がんの発症率」の全国平均というのは、通常頸部のしこりといった何らかの症状があって医療機関を受診し、甲状腺がんを発見された方の割合を指します。一方で、県民健康調査で甲状腺がん、あるいはがんの疑いと診断された方は、事故当時0歳から18歳だった方、さらに事故当時お母さんのおなかの中にいた方を対象に行われた検診(スクリーニング検査)によって発見された方です。現在、日本では(おそらく世界でも)福島のような甲状腺検査を行っているところはありません。そのため、同様の甲状腺検査を行った場合、他の地域でどのくらいの頻度でがんが発見されるかという調査はほとんど行われていません。

 ただ、福島県よりはかなり小規模ながら、近年いくつかの地域で小児や若年者を対象とした甲状腺検査が行われており、それらの結果をみると福島県における甲状腺がんの割合とほぼ同じであることが示されています。県民健康調査で発見されている甲状腺がんの多くは、精度の高い検査を行うことで、放射線と関係なく以前から一定割合ある「潜在がん」を見つけている可能性が高いと考えられます。このような現象は「スクリーニング効果」と呼ばれ、単純に福島県における甲状腺がんの発症率が高い、とは言えないことがわかります。
Q 100人以上が甲状腺がん診断 原発事故の影響か
  県民健康調査で行われている甲状腺検査で、これまで1 0 0人を超える方が甲状腺がん、あるいはがんの疑いと診断されたということですが、これはやはり事故の影響なのでしょうか。

A 因果関係考えにくい フォローアップ必要
   県民健康調査では、甲状腺検査として事故当時0歳から18歳だった方、さらに事故当時お母さんのおなかの中にいた方を対象に、甲状腺の超音波検査を実施しています。現在までに先行検査と最初の本格検査が終了していますが、これまでに先行検査では 1 1 6 人、最初の本格検査では68人、あわせて 1 8 4 人の方が甲状腺がん、あるいはがん疑い、と診断されています。

 問題は、これまで見つかっている事故による放射線被ばくと甲状腺がんに因果関係があるかどうかですが、これまでのところ被ばくによってがんが増加したとは考えにくい状況です。その理由のひとつは甲状腺がんと診断された方の事故当時の年齢です。一般的に放射線被ばくによって起こるがんは被ばく時年齢が若い世代に、よりリスクが大きくなることがわかっています。チェルノブイリ原発事故では、事故の4〜5年後から、事故当時0歳から5歳だった世代を中心に小児甲状腺がんが多発したことがわかっています。一方で、福島ではこれまでのところ事故当時0歳から5歳だった世代での甲状腺がんはほとんどみられず、事故当時の年齢が高い世代に比較的多くみられて県民健康調査で発見された甲状腺がんは、これまで行っていなかった超音波検査を行うことによって見つかったものであると考えられます。今後も放射線被ばくと甲状腺がんとの因果関係に着目して、フォローアップしていく必要があると考えられます。
Q 浜通りの甲状腺がん割合高いか
  県民健康調査の甲状腺検査では、県内の地域ごとの所見の頻度についても分析していると聞きました。東京電力福島第一原発がある浜通りではやはり甲状腺がんなどの割合が高いのでしょうか。

A 県内各地の発症頻度ほぼ同じ 今後も因果関係の検討が大切
   県民健康調査では「基本調査」として、事故直後から4カ月間の外部被ばく線量を推定しています。現在までに県民の約28%に当たる56万5000人余りの方が回答していますが、回答内容を解析した結果、会津地域や南会津地域の推定外部被ばく線量はそれぞれ0.2と0.1ミリシーベルトであったのに対して、避難区域を含む相双地域や県北地域、県中地域の推定外部被ばく線量はそれぞれ0.8、1.4、1.0ミリシーベルトとやや被ばく線量が高い傾向にあります。ただ、いずれの地域でも外部被ばく線量は極めて限られており、健康影響を及ぼすような線量では全くありません。

 一方で、県民健康調査で行われている「甲状腺検査」のうち先行検査で甲状腺がんあるいはその疑いと診断された方の発症頻度を地域別に比較したところ、避難区域等の13市町村(田村市や伊達市、川俣町、飯舘村を含む)で10万人当たり33.5人、中通りで38.4人、浜通り(避難区域以外のいわき市、相馬市、新地町)で43.0人、会津地方で35.6人と甲状腺がんの頻度はほぼ同じであり、少なくとも事故当時に東京電力福島第一原発の近くにいらっしゃった方に甲状腺がんが多いということはありません。

 今後も、放射線被ばくと甲状腺がんとの因果関係を明らかにするには、単純に発症数を見るのではなく、このように地域ごとの発症率を比較したり、事故当時の年齢と甲状腺がんとの関連を検討することが大切です。
Q 県外で甲状腺検査 受診可能か
  18歳になる自分の娘が今度進学で東京の大学に進学することになりましたが、県外でも県民健康調査の甲状腺検査を受けることは可能なのでしょうか。

A 日本全国で検査受付 検査可能な病院確認を
   県の県民健康調査のうち、甲状腺検査は事故当時に概ね18歳以下だった人、および2011年4月2日から2012年4月1日に生まれた方、つまり事故当時にお母さんの胎内にいた方を対象として行っています。検査は20歳までは2年毎、その後は25歳、30歳、35歳と5年毎の節目に実施することになっています。甲状腺検査は市町村毎に実施されているほか、福島県内の検査実施機関でも受けることができます(要予約)。

 さらに、今後対象となっている方が進学や就職で県外に行かれても検査が受けられるよう、甲状腺超音波検査を受けることのできる病院が日本全国にありますので、福島県外に住む場合でも検査を受けることができます。例えば、東京都では虎の門病院(港区)、国立成育医療研究センター(世田谷区)、伊藤病院(渋谷区)などで、宮城県では東北大学病院などで検査を受けることができます。

 福島県内の検査実施機関や県外での検査についての詳しい説明、それに検査可能な医療機関の一覧表は福島県立医科大学の「放射線医学県民健康管理センター」のホームページ(http://fukushima-mimamori.jp/)に紹介されていますので、最寄りの病院を確認してみてください。

 県外の学校、職場でも毎年、学校健診や職場健診があると思いますが、これらの健診では甲状腺検査を受けることができません。甲状腺検査などを受ける場合には、検査可能な病院を確認していただき、受診してください。
おわりに
 2011年3月11日の東日本大震災、そして東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、私は「福島県放射線健康リスク管理アドバイザー」として福島県下で住民の方を対象に「放射線と健康」についての講演を行ってきました。また、2011年の12月からは福島民報社から新聞紙上で放射線と健康についてのQ&Aを連載することを依頼され、2013年10月まで連載を行ってきました。連載という慣れない作業でしたが、多くの方から感想や質問、あるいは激励の言葉をいただき、3年間、計150回の連載を継続することができました。

 今回出版されることになった本冊子は、これまで掲載したQ&Aからピックアップし、一部改編したものに加え、現時点で県民の皆様の関心が高いであろう事項について、新たにQ&Aを書き加えたものです。事故から6年がたち、これまで長く避難してきた自治体の多くが今後帰還に向けた準備を加速されていると聞きます。本冊子は、特に 今後故郷に帰還する住民の方に役に立てられればと考えて編集、出版に至ったものです。今後福島のさらなる復興のために、本書が少しでも役に立てば幸いです。
 
 最後になりましたが、本冊子の出版においてご協力いただきました 環境省、公益財団法人原子力安全研究協会、福島民報の連載と本冊子の出版にご尽力いただいた同社の皆様、そして常に私のサポートをしていただいた長崎大学国際保健医療福祉学研究分野(原研国際)のスタッフの皆さんに感謝申し上げたいと思います 。

平成29年3月
長崎大学  高 村  昇
高村 昇 略歴
たかむら・のぼる(1968年7月11日生、48歳)
長崎大学教授

専門分野:
被ばく医療学、国際保健学、衛生学、内分泌学、 内科学


学歴・職歴
1993年3月
1997年3月
1997年6月〜2001年10月
1999年6月〜2000年7月
2001年11月〜2003年2月
2003年3月
2008年

2010年1月〜2010年9月
長崎大学医学部卒業
長崎大学医学部大学院医学研究科卒業
長崎大学医学部原爆後障害医療研究施設国際放射線保健部門助手
世界保健機関(WHO)本部(スイス・ジュネーブ)技術アドバイザー
長崎大学医学部社会医学講座講師
長崎大学医歯薬学総合研究科公衆衛生学分野准教授
長崎大学原爆後障害医療研究所
国際保健医療福祉学研究分野(原研国際)・教授
世界保健機関本部テクニカルオフィサー
所属学会
日本内科学会、日本内分泌学会、日本衛生学会、日本放射線影響学会
社会活動
世界保健機関本部技術アドバイザー
長崎ヒバクシャ医療国際協力会運営部会委員(副部会長)
長崎県建築審査会委員
福島県放射線健康リスク管理アドバイザー
財団法人放射線影響研究疫学部顧問、同臨床研究部顧問 等
受賞歴
ゴメリ医科大学(ベラルーシ共和国)名誉教授、2005年度
角尾学術賞「国際ヒバクシャ医療支援と分子疫学的研究および地域保健への展開」2005年度
ベラルーシ医科大学(ベラルーシ共和国)名誉博士号、2006年度
東カザフスタン州(カザフスタン共和国)保健局表彰、2006年度