用語解説  
 
放射線基礎
原子爆弾被爆と世界の放射線事故
放射線被ばくの生体への影響
放射線と臨床医学
緊急被ばく医療と高度医療



放射線基礎
 
放射線 radiation  

 空間を伝わるエネルギーの流れの総称。このうち空気を電離することができるものを電離放射線(ionozing radiation)と呼び、一般に「放射線」と言えば「電離放射線」を意味する。原子力基本法等では、「電磁波又は粒子線のうち、直接又は間接に空気を電離する能力を持つもので、(1)アルファ線、重陽子線、陽子線その他の重荷電粒子線及びベータ線、(2)中性子線、(3)ガンマ線及び特性エックス線(軌道電子捕獲に伴って発生する特性エックス線に限る。)、(4)1メガ電子ボルト以上のエネルギーを有する電子線及びエックス線をいう。」と定義されている。放射線のエネルギーの単位には電子ボルト(eV、electron volt)が用いられる。1eVは電子が1Vの電位差で加速されたときに得る運動エネルギーで、1.60219x10-19Jに相当する。
   
放射能 radioactivity  
   自発的に放射線を出すことのできる能力。原子核の壊変により自発的に放射線を放出する放射性同位元素(radioisotope)は放射能を有する。単位はBq(ベクレル)で、1Bqは1秒間に1壊変する能力を意味する。アメリカでは旧単位であるCi(キュリー)が現在でも用いられている。1Ci = 3.7x1010Bqである。
   
放射性同位元素 radioisotope  
   同位体(isotope、陽子数が同じで中性子数が異なる原子)のうち、原子核の壊変により自発的に放射線を放出するもののこと。日本ではRI、あるいはアイソトープと略称されることが多いが、海外ではそのような省略形は用いない。
   
吸収線量 absorbed dose  
   物質が放射線によって付与された単位質量あたりのエネルギーのこと。単位はグレイ(Gy)で、1kgあたりの付与エネルギー(J)で示される。
   
等価線量 equivalent dose  
   国際放射線防護委員会(ICRP)の1990年勧告で導入された、人体の組織における放射線影響を表す量。単位はシーベルト(Sv)。放射線の作用は放射線の種類によって異なることから、組織における吸収線量に放射線荷重係数を乗することにより得られる。最新のICRP2007年勧告ドラフトでは、放射線荷重係数は光子、電子、ミュー粒子が1、陽子が2、α粒子、核分裂片、重イオンが20、中性子はエネルギーによって2.5〜21の範囲とされている。
   
実効線量 effective dose  
   国際放射線防護委員会(ICRP)の1990年勧告で導入された、確率的影響(がん、遺伝的影響)を指標とした放射線の全身影響を表す量。単位はシーベルト(Sv)。放射線感受性は人体の各組織によって異なることから、等価線量に組織荷重係数を乗じ、これを全身について加算した総和として得られる。最新のICRP2007年勧告ドラフトでは、組織荷重係数は赤色骨髄、結腸、肺、胃、乳房、及びその他の組織(心臓、腎臓等13の組織の和)がそれぞれ0.12、生殖腺が0.8、膀胱、食道、肝臓、甲状腺が0.04、骨表面、脳、唾液腺、皮膚が0.01とされている。放射線業務従事者の被ばく線量は、この実効線量及び等価線量により管理する。
   
軌道電子捕獲 electron capture  
   単に「電子捕獲」とも言う。β壊変の一種であるが、電子が放出されるのではなく、原子核が軌道上の電子を核内に取込む現象のこと。電子捕獲後の原子核では陽子数が1つ減少、中性子数は1つ増加し、質量数は変わらない。多くの場合、壊変後の原子核は不安定であり、γ線を放出することによって安定化する。代表的な核種に125Iがある。
   
自然放射線(Natural Radiation, Back Ground)  
   放射線は、自然放射線と人工放射線があります。自然放射線は、地球にあるウランやラジウムの放射性物質から放出されている放射線と宇宙から降り注いでいる宇宙線があります。この自然放射線は、空気、大地、建築物や人間の体内にも存在しています。この環境場で生活している私達は、体内外からの放射性物質からの放射線を浴びていることになります。体内にある放射性物質として、食物から摂取するカリウム(K)や炭素(C)、空気の吸入によるラドン(Rn)などがあります。また、地球を形成している岩石の中では花崗岩が一番放射性物質を含んでいます。また、温泉にも放射性物質を含んでいるところがあり、三朝温泉(鳥取県)等があります。最近よく耳にするのがウランガラスで、ウラン鉱石をガラスの中に混ぜると特有な青白い光を放つそうです。昔からこのウランガラスの青白い妖しい光に魅せられた愛好者が多いそうです。
   
アイソトープ(同位体)(Isotope, Radioisotope)  
   原子核は、陽子と中性子からできていて、この陽子の数と中性子の数が異なることにより、原子の種類が異なります。同位体は、陽子の数が同じで中性子の数だけが異なる原子同士のことを同位体(Isotope)と呼びます。質量は当然異なりますが、化学的性質は同じです。例えば水素(H)は、3つの同位体1H(水素,Hydrogen)、2H(重水素Dueterium)、3H(三重水素,Tritium)があり、その中の3Hが放射性同位体(Radioisotope)でβ線である放射線を放出します。β線を放出して他の物質(3He(ヘリウム,Helium))に変わります。
   
LET  
   Linear Energy Transferの略。線エネルギー付与。荷電粒子の飛跡に沿って単位長さ当りに局所的に与えられるエネルギー量をあらわす。たとえば、α線とγ(X)線とでは電離のミクロな空間分布が異なり、α線は密な電離を引き起こすが、γ(X)線では電離はより疎に分布する。このようなことから、α線は高LET放射線、γ(X)線は低LET放射線などと呼ばれる。単位としてはkeV/μmなどが用いられる。
   
ホールボディカウンター(Whole Body Counter)  
   人体からの微量放射線を測定する装置のことです。またはヒューマンカウンタ(Human Conter)とも言っています。測定できる放射線はγ線です。検出器は、ヨウ化ナトリウム(NaI)結晶使用した検出器や純ゲンルマニウム半導体検出器が使用されています。
 ヨウ化ナトリウム検出器の長所は、検出感度がよいと言うことです。従って短い時間で正確に測定することが出来ます。短所はエネルギー分解能が悪く近接したスペクトルが分離できません。
 純ゲンルマニウム半導体検出器の長所は、エネルギー分解能に優れ、近接したスペクトルを分離できることです。短所は検出感度がヨウ化ナトリウム検出器に比べ悪いため、測定時間が長くかかることです。
 本装置は、医療での研究及び診療での目的で、放射線事故による体内汚染レベル及び汚染部位の検索。正常人の体内の自然放射能レベル及び分布。放射性物質の投与された患者様の人体内代謝機能の測定に供しています。例えば、筋ジストロフィ患者様や高血圧症患者様のカリウムの測定による診断等に用いられています。


原子爆弾被爆と世界の放射線事故
 
アンゼラスの鐘  

 2005年に被爆60周年を迎え、長崎原爆をテーマに虫プロダクションが作成した原爆アニメーション映画。秋月辰一郎著「長崎原爆記」や「死の同心円」をもとにしている。原爆投下時、浦上第一病院で被爆した医師が入院患者や関係者とともに医療救援活動を行った。粗末な器具とわずかな医薬品しかなく、被害の甚大さに無力感に襲われつつ戦った地獄の40日間が描かれている。
   
永井隆  
   1908年、島根県生まれ。1932年長崎医科大学卒業後、物理的療法科の助手となる。1933年満州事変に従軍。1934年復職後、森山緑と結婚。1937年講師、1940年助教授となる。1945年6月、慢性骨髄性白血病と診断される。同年8月9日、原爆に遭い、右側頭動脈切断の重傷。ふらつきながらも第11医療隊の隊長として負傷者の救護にあたる。1946年、「長崎の鐘」を脱稿。1951年5月逝去まで療養生活の中で執筆活動を続け、名著を残した。
   
調来助  
   1899年、福岡県生まれ。1924年東京帝国大学医学部卒業。1942年長崎医科大学第一外科教授に就任し、1945年原爆に遭う。二人の息子を原爆により失い、自らも負傷しながら被災市民の救護のため、第6医療隊の隊長として救護活動を行った。また医科大学壊滅の危機を救うため奔走した。1965年定年退官まで原爆遺族の会の世話人を務め、退官後も継続して行い、記念誌「忘れな草」を発行した。1989年逝去。
   
秋月辰一郎  
   1916年、長崎市生まれ。1940年京都大学医学部卒業後、長崎医科大学放射線科にて永井隆博士の下で研究。被爆時、浦上第一病院勤務。被災後の救護活動はアニメーション映画「アンゼラスの鐘」に刻まれている。救護活動の後、しばらく休養し、聖フランシスコ病院(旧浦上第一病院)に長年勤務した。1992年、喘息の発作で倒れ、植物状態のままの病床生活が続き、2005年9月の映画完成を待っていたかのように同年10月に永眠した。
   
チェルノブイリ組織バンク  
   チェルノブイリ原発事故後に激増した小児甲状腺癌から最近の成人甲状腺癌まで約1500例の癌組織、遺伝子を登録保管している国際共同研究組織。欧州共同体、米国、日本それにWHOが、ロシア、ウクライナの研究機関と共同してこれら貴重な手術サンプルや病理組織、血液などを患者情報と共に国際共同管理し、遺伝子バンクとして世界中からの申請研究に対応している。
http://www.chernobyltissuebank.com/
   
SNPs  
   一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism)の略号。生物種集団のゲノム塩基配列中に一塩基が変異した多様性が認められ、その変異が集団内で1%以上の頻度で見られる時に用いられる遺伝的多型を示す言葉。
   
分子疫学  
   「疫学」とは「特定の集団内の健康に関連した状態または事象の分布や決定要因に関 する研究であり、健康問題をコントロールするためにその研究成果を応用する」と定義される。これに対して、「分子疫学」とはその要因を遺伝子そのものの「かたち」(SNPなどの遺伝的多型)にもとめて、ある特定の疾患にかかるリスクがどの程度あるかを推測する学問。


放射線被ばくの生体への影響
 
急性(放射線)障害  

 短期間に多量の放射線を被曝した場合では、遅くとも2〜3ヶ月以内に障害が現れる。主な症状としては、骨髄症状(白血球や血小板の減少、出血や感染)、消化器症状(下痢や発熱)、神経学的症状(吐き気、震え、めまいや昏睡)などがある。これらは確定的な影響で、しきい値がある。
   
晩発(放射線)障害  
   急性障害に耐えて生き残った場合や、比較的低線量の放射線を一度に、または分割したり長期にわたって被曝した場合は、長い年月の潜伏期を経て障害が現れてくる。白内障、発癌や、遺伝的障害が代表的なものである。白内障は確定的な影響で、組織の分化過程に長い年月がかかるために症状が遅く出てくる。一方、発癌や、遺伝的障害は確率的な影響であると考えられている。
   
リスク  
   リスク(risk)とは、ある集団において、ある観察期間中におきた好ましくない事象の発生率をいい、病気の発生に注目した場合は発生リスク、死亡に注目した場合は死亡リスクという。単位として人年(person-year)あたりの数値が使用されることが多い。10万人年あたりの発生リスクが334人というのは、人口10万人あたり1年間に334人発生する、という意味に近い。
   
相対リスク(RR)と過剰相対リスク(ERR)  
   一般的な疫学研究において2つ以上の集団でリスクを比べる時、非曝露群と比べて曝露群が「何倍」のリスクがあるのかをみるのが相対リスク(RR: relative risk)で、1以上であれば曝露群のリスクが高く、1以下であれば曝露群のリスクが低い。例えば、被爆線量がゼロの集団における疾患Aの発生リスクが10万人あたり2人で、被爆線量が1 Svの集団では10万人あたり5人だった場合、単純なRRは5/2=2.5倍となる。しかし、放射線被ばくのリスク評価では、放射線を浴びることによって単位線量当たりどのくらい過剰にリスクが上昇したのかをみる過剰相対リスク(ERR: Excess relative risk / 1Sv)という指標が用いられることが多い。上記の例では、単純なERRは(5−2)/2=1.5となり、被爆線量1 Sv浴びると1.5倍過剰に発生リスクが上昇することを意味する。しかし、実際の被爆者集団における解析では、被ばく線量、被ばく時年齢、被ばくからの経過時間、現在の年齢、性別などの、様々な因子を考慮して解析されている点に注意が必要である。
   
絶対リスク(AR)と過剰絶対リスク(EAR)  
   一般的な疫学研究において2つ以上の集団でリスクを比べる時、非曝露群と曝露群で「何人」のリスク差があるのかをみるのが絶対リスク(AR: Attributable risk)である。例えば、被爆線量がゼロの集団における疾患Aの発生リスクが10万人あたり2人で、被爆線量が1 Svの集団では10万人あたり5人だった場合、単純なARは、5−2=3となり、被爆線量が1 Svの集団では10万人あたり3人過剰に発生したという意味になる。ERRと同様に、放射線被ばくのリスク評価では、放射線を浴びることによって単位線量当たりどのくらい過剰にリスクが多くなったかをみる過剰絶対リスク(EAR: Excess Attributable risk / 1Sv)という指標が用いられることが多いが、実質的にEARとARと同義である。EARも実際の被爆者集団における解析では、被ばく線量、被ばく時年齢、被ばくからの経過時間、現在の年齢、性別などの、様々な因子を考慮して解析されている点に注意が必要である。
   
ガン死亡率(Mortality Rate)と過剰ガン死亡率(Excess Mortality Rate)  
   ガン死亡率は、単純に観察母集団の観察期間の合計(人年)あたりの死亡数である。過剰ガン死亡率とは、放射線を浴びることによって単位線量当たりどのくらい過剰に死亡数の増加があったかをみる指標である。
   
BRAF遺伝子  
   BRAFは、細胞増殖・分化などに関与する細胞内シグナル伝達系MAPキナーゼカスケードを構成するMAPKKKの一つ。悪性腫瘍でのBRAF遺伝子異常の80%は点突然変異BRAFV600Eで、悪性黒色腫と成人甲状腺乳頭癌で多く報告されている。この変異で、BRAFの自己リン酸化抑制が破綻しキナーゼ活性が亢進、結果としてMAPキナーゼカスケードの恒常的機能亢進がおこりがん化につながる。
   
RET/PTC遺伝子  
   RETは神経堤分化に関与する増殖因子GDNFをリガンドとする受容体型チロシンキナーゼ。DNA二重鎖切断により、他の遺伝子と再構成で生じるキメラ遺伝子がRET/PTC遺伝子で、現在までに少なくとも15種類の報告がある。甲状腺乳頭癌ではRET/PTC1と3が通常型。RET/PTC遺伝子転写産物は2量体を形成し、リガンド非依存性の自己リン酸化能を獲得し細胞増殖を刺激することでがん化につながる。
   
MSI  
   Microsatellite Instabilityの略。遺伝子(DNA)不安定性の一種。遺伝子(DNA)内に認められる短い塩基対(通常1-5塩基程度)の繰り返し配列をマイクロサテライトという。この塩基配列に欠失や変異が起こることで遺伝子異常が起こる。
   
FISH(fluorescence in situ hybridization)解析  
   蛍光物質や酵素などで標識したオリゴヌクレオチドプローブを用い、目的の遺伝子とハイブリダイゼーションさせ蛍光顕微鏡で検出する手法である。標識物質の異なる複数のプローブを同時に用いることで、遺伝子の構造変化等を詳細に解析できる。医学分野等では遺伝子のマッピングや染色体異常の検出などで用いられている。本講座では、性染色体に対するプローブを用いて、ドナー(女性)由来の血管内皮細胞の存在を証明している。


放射線と臨床医学
 
ICRP  

 International Commission on Radiological Protectionの略で、日本語では「国際放射線防護委員会」。専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う国際組織である。第1から第4までの4つの専門委員会が設けられ、放射線防護の基本的な考え方、防護基準、放射線防護の方策などについて検討する。検討結果は勧告あるいは報告という形で公表され、各国の放射線防護基準の規範となっている。
   
線量限度  
   放射線被ばくの制限値として設定された線量の限度で、放射線被ばくを伴う行為(原子力発電、放射線利用など)が正当化され、放射線防護手段が最適化された上で適用されるべきものである。現行法令は、ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告(1990年)に基づき、線量限度が定められている。その概要は、実効線量の限度が、職業人に対し、50mSv/年、5年間で100mSv、一般公衆に対し、1mSv/年、である。なお、この線量限度には自然放射線による被ばくと医療行為による被ばくは含まれていない。
   
リニアック  
   線形加速器あるいはリニアック(LINAC)ともいい、電子またはイオンを直線に走らせながら加速する。特徴として、電子またはイオンの走行時間に合わせて電極を並べ、電極に供給した高周波の電場を利用して加速する。感覚的には、サーフボードで波乗りをしているようなものである。電子と陽子(イオン)ではその質量が異なるため、同じエネルギーでも速度が極端に違うので、異なる設計をしなければならない。小型のものは医療、滅菌、工業などに盛んに使われている。
   
シンチグラフィー  
   scintigraphy. 人体などに放射性同位元素(RI)で標識した化合物をトレーサとして投与し、それが集積した臓器や組織の放射能を外部から測定し、その分布を写真黒化の濃淡あるいはカラー画像として表示する検査法である。放射能はシンチレーション計数管により測定する。計数管を自動的に走査(スキャン)し画像化する装置をシンチスキャナといい、計数管を固定して測定し、画像化する装置をシンチレーションカメラという。出来た画像をシンチグラムという。化合物の種類によって人体内の集積場所が異なり、その速度や集積度が臓器その他の人体機能の活性度に依存するので、核医学診断法の有力な武器である。
   
SPECT  
   single photon emission computed tomography. 単一光子放射型コンピュータ断層撮影。シングルフォトンECT。医療分野での放射線利用技術として、体内に投与されたγ線放射核種(放射性同位体元素でラベルした物質)を体軸の周囲からガンマカメラで計測し、コンピュータを用いて体内放射能分布映像を得るインビボ(in vivo)検査方法。すなわち、X線 CTやMRIは形態を見るのみであるが、動的な生体機能を検査できる。主に脳や心臓などの血流・代謝を診るのに用いられる。


緊急被ばく医療と高度医療
 
IAEA  

 International Atomic Emergency Agencyの略である。日本語では、「国際原子力機関」(国連)という。国連の専門機関の一つで、原子力平和利用を通じて世界の平和と繁栄に貢献することを目的に1957年設立された国際機関である。現在113が加盟しており、IAEAの本部はウィーンにある。
   
REMPAN  
   WHOは、昭和63(1988)年より放射線緊急時医療準備・支援ネットワーク Radiation Emergency Medical Preparedness & Assistance Network (REMPAN)を立ち上げた。被曝患者の診断・治療には専門的な知識や技能が要求されるが、そのための専門家は世界的に見ても少ない。そこで、WHOは、世界各国の専門家をREMPANという組織に糾合し、被曝医療の国際的な協力体制を目指している。平成16(2004)年現在、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、ウクライナ、ハンガリー、アメリカ、日本、オーストリア、ブラジルなど10カ国に計14箇所のREMPAN協力センターが設置されており、韓国、インド、中国、フィンランド、日本の5カ国にREMPANリエゾン研究施設がある。日本では、放影研が、昭和63(1988)年にREMPAN協力センターになり、平成16(2004)年に長崎大学がREMPAN協力センターに指定され、千葉の放射線医学総合研究所(放医研)がリエゾン研究施設に指定された。核事故・放射線事故が発生した場合には、上記の国際協定締結国は国際原子力機関IAEAに事故を通報し、支援を要請する事になっている。
   
非破壊検査  
   Non−Destructive Examination. Non−Destructive quality Evaluation. この検査技術は、一般の工業分野において製品の品質、特性を検査する手段として古くから用いられてきたが、食品や農業の分野においては比較的新しい手法として用いられている。この検査方法は、測定対象物に何らかのエネルギーを与えるとき、その入力エネルギーと対象物によって影響を受けた出力エネルギーの関係を調べることによって、非破壊的に対象物の品質にかかわる特性を得ることができる。使用するエネルギーの種類によって、光学的方法、放射線的方法、力学的方法、電磁気学的方法などに分類される。
   
臍帯血バンクネットワーク  
   国内でそれぞれ独立した11カ所の臍帯血バンクの情報を共通管理するために設立された組織。臍帯血移植を推進することを目的として平成11年に作られ、現在では臍帯血取り扱いの標準化や臍帯血検索を全国ネットで可能とするなど臍帯血移植が公平かつ安全に行われるための事業を行っている。
   
GVHD  
   Graft versus Host Disease (移植片対宿主病)の略。同種造血幹細胞移植において、幹細胞と同時に輸注されたリンパ球や、生着した造血幹細胞より新たに生み出されたリンパ球が宿主臓器を標的とした同種免疫反応を起こすことによる有害事象。移植後90日以内に発症する急性型とそれ以降に発症する慢性型に分類される。同種造血幹細胞に特異的な有害事象である。
   
細胞外マトリックス  
   生体において、細胞の外に存在する超分子構造体のことである。細胞間の空間を充填したり組織構造を形成するのみならず、それ自体が細胞と接着して様々なシグナルを伝達したり、増殖因子などの機能分子を保持し細胞に提供することで、細胞の増殖・運動・生存・分化などを制御する。代表的な分子として、コラーゲン、プロテオグリカン、ヒアルロン酸、フィブロネクチンなどが知られている。
   
ケモカイン  
   ケモタキシス(chemotaxis)と呼ばれる細胞の移動を促す生理活性因子の総称である。ヒトでは30種類以上が知られており、それらは共通の構造的特徴を持つ。主に白血球の遊走活性を有し細胞間の相互作用を誘発することで、炎症や免疫応答などの機能に関与している。
   
組織工学  
   細胞とその足場構造となる細胞培養担体(scaffold)および増殖因子などを組み合わせて組織や臓器を形成させる工学的な技術体系を意味する。再生医療領域の関連技術における、工学的な側面全般を指している。再生医療のみならず臓器移植の領域でも、ドナー不足・拒絶反応・人工物の生体親和等の問題を解決するものとなりうる。次世代医療を担う重要な技術のひとつであると考えられている。
   
ex vivo増幅  
   ex vivoとは「生体外」という意味である。対応する言葉として、in vivoすなわち「生体内」がある。従って、ex vivo増幅とは、特定のソースから得られた幹細胞を、ex vivo(体外)で培養することで、再生医療として応用可能な数量まで増殖させることを意味する。至適培養条件を決定することで、治療に必要な幹細胞の量や分化の方向性とその度合いを制御する必要がある。
   
GMP(Good Manufacturing Practice)基準  
   薬事法で定められた、医薬品・医療用具の製造及び品質や安全性の管理に関わる規則・遵守事項である。これに準拠した体制を整備していることが、製造認可取得の為の必要条件となる。更に、これは治療用として細胞や組織を利用する場合にも適用されるものであり、原材料の管理、製造工程の評価・検証、製品の規格・試験方法の設定及び特性や品質解析等について、適正に管理する必要がある。再生医療の開発にも高いレベルで要求される条件となる。