- 造血器腫瘍
(1)白血病の分子疫学的研究
被爆後5-10年で多発した白血病発症には、放射線による遺伝子障害の関与が示唆される。白血病では融合型の遺伝子異常が病型特異的にみられる。散発例での融合遺伝子陽性頻度は、bcr-abl遺伝子(Ph染色体)は慢性骨髄性白血病(CML)で約100%、散発性成人急性リンパ性白血病(ALL)で約25%、小児ALLで約5%、またtel-AML1遺伝子は小児ALLの約25%である。一方、被爆者白血病での融合遺伝子の陽性頻度は全く不明である。本研究は、被爆者CMLにおけるbcr-abl融合遺伝子の確認、ALLにおけるbcr-abl,
tel-AML1 陽性頻度を散発例との比較により分子疫学的に検討、さらに新規融合遺伝子の関与の可能性を模索し、原爆放射線誘発白血病の特異性を検証することを目的とする。原研内科では、Japan
Adult Leukemia Study Groupに登録された多施設の成人ALL新鮮検体からRT-PCR法によるbcr-abl遺伝子検出を行っており、さらにRQ-PCR法によるCML細胞のbcr-abl融合遺伝子定量が可能となっている。被爆者の検体は病理標本と末梢血・骨髄スメア標本として保存されているが、保存検体より有効な核酸抽出法を開発、抽出RNAをRT-PCRに供し、融合遺伝子転写産物を検出し陽性頻度を解析する。また、被爆者病理組織パラフィンブロックを用いたbcr-abl
FISH法の検討、さらにDNAを用いPCRを利用した用いたbcr-abl融合遺伝子検出法も検討する。
(2)原爆被爆者における骨髄異形成症候群の疫学的研究
骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞の単クローン性増殖を示す疾患で無効造血をその特徴とする。骨髄での細胞増殖が末梢血球数に反映されず様々な程度の血球減少を示す。高齢化に伴い増加していると思われるが、これまでに原爆被爆とMDSとの関連は十分には検討されてこなかった。我々の予備的な検討では被爆距離とMDS発生頻度に関連が見られている。MDSは高齢者に多い疾患であり被爆後50年以上を経てもその影響が見られる可能性がある。本研究では主に疫学的手法を用いて放射線被曝によってMDSを増加させたのかを検討する。
- 固形癌
原研資料収集保存部の被爆者データベース(DB)には被爆者111751名の基本情報が登録され、腫瘍性病変を有す29647名の情報を抽出可能である。一方、長崎腫瘍組織登録委員会には1973年以来、腫瘍性病変が約22万件登録され、29647名の基本情報と組織診断名とのリンケージを進行中である。さらに1962年から1972年の病理診断名を入力(被爆者2270名、6640件)、長崎市内の被爆者腫瘍性病変のDBを完成する。DBを元に固形腫瘍と被爆距離の相関、多重癌の頻度を疫学的に検討する。これまでの検討より、被爆距離の近さに相関して罹患率の高い固形腫瘍として甲状腺癌、乳癌、髄膜腫、基底細胞癌が挙げられる。本研究ではこれら4種の固形腫瘍と多重癌に焦点を当て、遺伝子異常の検索を行う。現在までに、被爆者の固形腫瘍切除例は病理標本のパラフィンブロックとして蓄積されている。これらのパラフィンブロックを収集し、核酸の抽出とtissue
microarrayを作製、遺伝子異常検索のためのPCRやfluorescence in situ hybridization
(FISH)法に供する。FISHにより検出可能な遺伝子異常には欠失、増幅、再構成があるが、甲状腺癌のret/PTC再構成、乳癌のc-myc,
HER-2増幅、髄膜種の6q, 9p, 10q, 14q欠失および17q増幅などを標的に遺伝子異常を検索し、被爆距離との相関を分子疫学的に解析する。
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