プロジェクト:被爆者医療・疫学調査

 
目的 メンバー 事業計画 活動報告

目的

原爆被爆者に白血病や固形癌罹患率の増加が知られている。放射線発癌の分子機構の解明は広島・長崎の研究者にとっての責務であるが、ヒト組織を用いた分子疫学的検討は未だ不十分である。本プロジェクトでは、被爆者に発生した白血病と固形癌にみられる遺伝子異常を同定し、その遺伝子異常と原爆放射線との相関を非被爆者との比較において分子疫学的に検討、被爆者固形癌の発症に関与する特異的遺伝子異常を明らかにすることを目的とする。放射線被曝の後障害として重要な発癌の分子機構の解明に寄与し、被爆者における悪性腫瘍発症の予知や早期診断、治療法の開発に必要であり、被爆者医療に貢献する。

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メンバー

関根 一郎* 病態分子解析分野教授
宮崎 泰司 医学部・歯学部附属病院原研内科助手
中島 正洋 生体材料保存室講師
近藤 久義 資料調査室助手

*プロジェクトリーダー
宮崎泰司以外は全員、大学院医歯薬学総合研究科附属原爆後障害医療研究施設

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事業計画

  1. 造血器腫瘍
    (1)白血病の分子疫学的研究
    被爆後5-10年で多発した白血病発症には、放射線による遺伝子障害の関与が示唆される。白血病では融合型の遺伝子異常が病型特異的にみられる。散発例での融合遺伝子陽性頻度は、bcr-abl遺伝子(Ph染色体)は慢性骨髄性白血病(CML)で約100%、散発性成人急性リンパ性白血病(ALL)で約25%、小児ALLで約5%、またtel-AML1遺伝子は小児ALLの約25%である。一方、被爆者白血病での融合遺伝子の陽性頻度は全く不明である。本研究は、被爆者CMLにおけるbcr-abl融合遺伝子の確認、ALLにおけるbcr-abl, tel-AML1 陽性頻度を散発例との比較により分子疫学的に検討、さらに新規融合遺伝子の関与の可能性を模索し、原爆放射線誘発白血病の特異性を検証することを目的とする。原研内科では、Japan Adult Leukemia Study Groupに登録された多施設の成人ALL新鮮検体からRT-PCR法によるbcr-abl遺伝子検出を行っており、さらにRQ-PCR法によるCML細胞のbcr-abl融合遺伝子定量が可能となっている。被爆者の検体は病理標本と末梢血・骨髄スメア標本として保存されているが、保存検体より有効な核酸抽出法を開発、抽出RNAをRT-PCRに供し、融合遺伝子転写産物を検出し陽性頻度を解析する。また、被爆者病理組織パラフィンブロックを用いたbcr-abl FISH法の検討、さらにDNAを用いPCRを利用した用いたbcr-abl融合遺伝子検出法も検討する。
    (2)原爆被爆者における骨髄異形成症候群の疫学的研究
    骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞の単クローン性増殖を示す疾患で無効造血をその特徴とする。骨髄での細胞増殖が末梢血球数に反映されず様々な程度の血球減少を示す。高齢化に伴い増加していると思われるが、これまでに原爆被爆とMDSとの関連は十分には検討されてこなかった。我々の予備的な検討では被爆距離とMDS発生頻度に関連が見られている。MDSは高齢者に多い疾患であり被爆後50年以上を経てもその影響が見られる可能性がある。本研究では主に疫学的手法を用いて放射線被曝によってMDSを増加させたのかを検討する。

  2. 固形癌
    原研資料収集保存部の被爆者データベース(DB)には被爆者111751名の基本情報が登録され、腫瘍性病変を有す29647名の情報を抽出可能である。一方、長崎腫瘍組織登録委員会には1973年以来、腫瘍性病変が約22万件登録され、29647名の基本情報と組織診断名とのリンケージを進行中である。さらに1962年から1972年の病理診断名を入力(被爆者2270名、6640件)、長崎市内の被爆者腫瘍性病変のDBを完成する。DBを元に固形腫瘍と被爆距離の相関、多重癌の頻度を疫学的に検討する。これまでの検討より、被爆距離の近さに相関して罹患率の高い固形腫瘍として甲状腺癌、乳癌、髄膜腫、基底細胞癌が挙げられる。本研究ではこれら4種の固形腫瘍と多重癌に焦点を当て、遺伝子異常の検索を行う。現在までに、被爆者の固形腫瘍切除例は病理標本のパラフィンブロックとして蓄積されている。これらのパラフィンブロックを収集し、核酸の抽出とtissue microarrayを作製、遺伝子異常検索のためのPCRやfluorescence in situ hybridization (FISH)法に供する。FISHにより検出可能な遺伝子異常には欠失、増幅、再構成があるが、甲状腺癌のret/PTC再構成、乳癌のc-myc, HER-2増幅、髄膜種の6q, 9p, 10q, 14q欠失および17q増幅などを標的に遺伝子異常を検索し、被爆距離との相関を分子疫学的に解析する。
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活動報告

  1. 固形癌
    原爆被爆と発癌の因果関係の示唆される固形腫瘍を同定する目的で、1973年から2000年までの被爆者固形腫瘍の病理診断と被爆者データとのリンケージを基に被爆距離と固形腫瘍の罹患率との相関を統計学的に検討した。その結果、乳癌、膀胱癌、髄膜腫、基底細胞癌、甲状腺癌が、p<0.001の有意水準で被爆距離の近さと罹患率が相関し原爆放射線被曝の関与が示唆される。これら腫瘍の分子疫学的解析は、被爆者における固形腫瘍発生の理解に重要であると思われる。被爆者固形癌の保存試料の大部分を占めるホルマリン固定パラフィン包埋切片からtissue microarrayを作製し、FISH法による遺伝子変異解析の有用性を検討した。乳癌におけるHER-2遺伝子増幅を検索、1989年の切片において良好なシグナルが観察可能で、その結果は免疫染色とも一致した。甲状腺乳頭癌におけるRET rearrangementを解析、1999年までの検体を用い被爆者乳頭癌10例中1例のRET rearrangement(translocation)を検出した。FISH法は、被爆者の保存生体材料としてのパラフィンブロックを用いた遺伝子解析に有効であると思われる。
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