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長崎大学 原爆後障害医療研究所
分子腫瘍・診断学分野(原研医療)

Department of Molecular Oncology
Atomic Bomb Disease Institute, Nagasaki University

ご挨拶

 当教室は、初代山下一邦教授、二代目珠久洋教授(本学腫瘍医学講座に移籍、その後三重大学へ転出)が主宰されていたと聞いておりますが、世代交代の度にスタッフや研究内容は一新され、繋がりは無かったようであります。その後、前任の山下俊一教授が1990年10月に着任され、2018年3月までの長きに渡り、甲状腺と放射線影響分野における多大な功績を残され、それら以外の分野も含め多くの人材を輩出されました。その間、教室の略称は原研細胞(こちらの方が馴染み深い方が多いかもしれません)から原研医療となりました。2019年4月より教室からの昇任という形で私が後任を仰せつかりました。どうぞよろしくお願いいたします。教室の流れを受け継ぎながら、現代の急速に変わりつつある大学事情の中、ここ長崎から世界を見据えた学術的成果を発信しつつ、人材育成に尽力して参りたいと思います。

 これまで当研究分野では、癌や細胞の放射線応答に関する基礎的研究と、チョルノービリ原発事故に代表される被ばくの影響に関する社会医学的研究の双方を推進してまいりました。私の着任を契機として、現在は主に「甲状腺癌および放射線発癌の分子メカニズムの解明」に焦点を当てた基礎研究を進めています。特に、癌の発生や悪性度・予後に関与する遺伝子異常に注目し、研究成果を実臨床に還元すべく、「遺伝子診断」という応用分野にも積極的に取り組んでいます。2025年4月の原爆後障害医療研究所の改組にともない、分野名を「分子腫瘍・診断学」と改め、心機一転「放射線と甲状腺」に関する研究と臨床応用に一層貢献していく所存です。今後もご指導のほど、よろしくお願いいたします。

 2025年4月  光武 範吏

略歴

Prof_Mitsutake
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研究内容

甲状腺癌の悪性化メカニズム

 甲状腺癌は多彩な組織亜型を持ち、経過観察可能で悪性腫瘍とは呼べないような微小乳頭癌から、生命予後がわずか数ヶ月の未分化癌まで非常に幅広い悪性度を呈します。癌の様々なステージを研究できる興味深い対象であり、その研究成果は他の癌腫にも応用できるものと考えています。

 甲状腺癌の真の罹患数は非常に多いと言われており、韓国では最新の超音波診断装置による甲状腺検査を健康診断に導入した結果、甲状腺癌の罹患数が15倍に増加し、大きな問題となりました。日本でも成人女性に対して超音波による検診を行うと、癌の発見率が1%を超えるとする報告もあります。しかし、その多くは上記のように臨床的には問題とはならない微小乳頭癌であったと考えられます。その他の特徴としては、女性に多く、様々なホルモンの関与もあります。遠隔転移したような症例でも放射性ヨウ素治療で治癒することがある癌でもあります。逆に放射線治療抵抗性の難治性癌もあります。また、当教室の大きなテーマである、放射線被ばくによって生じる癌でもあります。

 上記のような甲状腺癌に対して、当教室で行っている具体的な研究テーマは以下の通りです。

放射線生物影響研究

 放射線被ばくによる健康影響は、細胞内にDNA二重鎖切断が誘発されることが出発点となります。被ばく線量が大きく、DNA二重鎖切断が全て修復できない場合には細胞死が起こり、急性障害が顕在化します。一方、DNA二重鎖切断が誤修復されたときには発がん変異が生じて、晩発障害であるがんの原因になりますが、これら生物影響発症の分子プロセスにはまだまだ未解明な部分が多く残されています。原発事故や核テロにともなう放射線災害医療に資する基礎研究として、急性障害につながる組織応答の統合的理解や、放射線による発がん機構の全容解明を目指しています。さらに、人類の宇宙空間への進出や放射線治療の高度化を念頭に、放射線障害の軽減や増感を目指して、以下のテーマを中心とした研究を展開しています。

国内外の様々な放射線影響研究拠点とのネットワークを活用した共同研究を重点的に推進しています。

DNA損傷修復機能の欠損による癌や難病発症メカニズム

 DNAは絶えず様々な損傷を受けており、生物にはそれを修復する機能が備わっています。このDNA損傷修復機能は、生命の恒常性維持に極めて重要な役割を果たしており、その機能が欠損するか弱いため、DNAが変化し、そのために病気を発症することがあります。

 当研究室では、そのようなDNA損傷修復機能と癌・難病発症との関連を調べる研究を多施設共同で行っています。

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メンバー

教員
光武 範吏  教授
鈴木 啓司  准教授
柿元(松瀬) 美智子  助教
Vladimir SANEKO  准教授 (原研疫学)
中山 貴文  助教 (原研病理)
研究員
Tatiana ROGOUNOVITCH
河村 香寿美
大学院生
原川 康太郎
中路 啓太 (第一内科)
鄭 博元
江藤 真実
秘書
横山 弘子
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主たる論文

 論文業績のPubMedへのリンクはこちら
  (著者名で検索しているため誤りを含む可能性があります。)
  リストは活動業績集にもあります。

2024

2023

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活動実績

活動実績集「うらかみ」について

 この活動実績集は、2017年度まで27号にわたり紙の冊子として製作してきた教室誌「うらかみ」を前身とするもので、号数は以前より引き継ぎ連番としております。以下はPDFファイルへのリンクです。

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大学院生募集

 原研医療では、放射線による発癌メカニズム、甲状腺癌の発癌・進展メカニズムに興味のある大学院生を募集しています。分子生物学、分子遺伝学、細胞生物学、モデル動物、分子疫学等の手法を使い、研究を進めています。原爆ヒバクシャやチョルノービリコホート等の貴重なサンプルを用いた研究も行っています。

 研究内容にもありますが、甲状腺癌の真の罹患率は非常に高く、経過観察可能な悪性腫瘍とは呼べないような腫瘍から、生命予後がわずか数ヶ月の未分化癌までその性質には大きな幅があります。また、女性に多く、ホルモンの関与、そして放射線被ばくによって生じると共に、放射性ヨウ素によって治療する癌でもあります。

人類は常に自然放射線によって低線量被ばくを起こしていますし、そのための修復機構が備わっています。しかし、高線量被ばくによっては発癌を含めた様々な障害が生じます。放射線は、医療現場のみならず、工業や農業などの様々な分野で利用されており、生物影響を正しく理解している人材が求められています。

この「甲状腺と放射線」という古くて新しいテーマに私達と共にチャレンジしてみませんか。

現在募集している専攻は以下のとおりです。

  長崎大学・福島県立医科大学共同大学院 災害・被ばく医療科学共同専攻(修士課程)
  長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 放射線医療科学専攻(博士課程)

 大学院は、研究内容はもちろんですが、社会人大学院生としての入学、その後のキャリアに関してなど様々な希望や過ごし方があります。当研究室での研究に興味のある方は、個別に相談に乗りますので、下記の連絡先までご連絡ください。

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研究に参加いただいた方へ

以下はPDFファイルへのリンクです。

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寄付のお願い

 近年、大学には研究対象・内容に縛られず自由に使うことのできる研究費の配分は激減しています。そのため、競争的資金といって、研究内容・方法を申請し、採択されなければ研究活動が出来なくなって参りました。採択率は、数%から高いものでも30%程度です。これらの審査では、すぐに結果が出そうなもの、そして社会的要請の高いものがどうしても優先されます。また、研究期間は3〜5年のものがほとんどです。我々が研究している放射線影響や甲状腺癌といった分野は、新型コロナウイルスのような新興感染症や、多くの患者さんが重篤化する・命を落とす疾患と比べますと、どうしても優先度が下がると判断されることは否めません。また、ブレークスルーを起こすための思い切ったチャレンジや、長期的で地道な研究には、なかなか研究費がつきません。

 甲状腺癌は多くの患者さんが治癒するいわゆる生存率が高いがんであり、そのため10年以上経過を追うことがよくありますが、そのような長期間の研究資金はありません。また、生存率が高くても、潜在的な患者さんの数は非常に多く、常に一定の再発や治療方法が無くなって死亡される患者さんがいます。逆に甲状腺癌には、「癌」なのにそれ以上進行しない、経過観察が可能なものも存在します。とても興味深い研究対象ですが、上記のような理由から研究資金の獲得は難しいのが現状です。進行しない「癌」を研究する意味は、その機序を知ることで、別の癌への対策につながる可能性があると考えています。

 そこで、私どもの研究テーマ、研究教育活動に対してご賛同いただける方に、研究資金のご寄付をお願い申し上げます。頂いた資金は、競争的資金ではカバーできない部分に、大切に有効活用させていただきます。ご寄付いただいたお金は、長崎大学の規則に則り、 認められた研究教育活動以外には使われません。また、ご寄付いただいた方は税制上の優遇措置が受けられます。以下にご連絡いただければ、手続きをご説明いたします。

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