長崎大学原爆後障害医療研究所 原爆・ヒバクシャ医療部門 血液内科学研究分野(原研内科)/長崎大学病院 血液内科

教室紹介

 当科は、長崎大学原爆後障害研究所 原爆・ヒバクシャ医療部門 血液内科学研究分野という現正式名称ですが、以前より「原研内科」と呼ばれています。長崎および広島の原爆被爆者に生ずる放射線の影響を研究するために1962年に「長崎大学医学部附属原爆後障害医療研究施設」が設置されました。原研内科はその4番目の部門として、1965年初代教授 朝長正允先生の下、原爆被爆者に発生する疾患に対する臨床部門として「後障害治療部門」という名称での開設でした。朝長先生は残念ながら1971年に任期途中で病没されるという不幸に見舞われましたが、1972年には市丸道人先生(長崎大学名誉教授)が二代目教授に就任しました。それまで原研内科では被爆者に生ずるあらゆる疾患を診ていましたが、被爆者における白血病の多発など放射線による造血異常が明らかとなり、市丸先生の在任中に血液内科としての方向性が定まりました。
 1990年には三代目教授 朝長万左男先生(現・長崎原爆病院院長)が就任しました。被爆者の造血異常という背景を持つ血液内科として、市丸先生、朝長先生のもと、白血病、悪性リンパ腫などの造血器腫瘍ならびに骨髄異形成症候群、再生不良性貧血などの造血不全に対する診断、治療、などの臨床研究並びに基礎研究が推し進められました。この間、原爆後障害医療研究施設は長崎大学医学部附属から長崎大学大学院医歯薬学総合研究科附属となり、原研内科の正式名称も「分子医療部門 分子治療研究分野」となりました。
 そして2009年9月には宮﨑泰司先生が四代目教授に就任し、また、2013年には原爆後障害医療研究施設が長崎大学原爆後障害医療研究所となり、さらなる飛躍・発展を期しています。その中で原研内科は「原爆・ヒバクシャ医療部門 血液内科学研究分野」を担当しています。

 現在、研究所にあっては医学部学生教育、大学院生教育、血液学研究、原爆被爆者研究を推進しつつ、臨床面では長崎大学病院で血液内科を担当しています。医学部学生、大学院生教育、研修医・修練医教育、などの教育に力をいれつつ、長崎県下の血液疾患の中心施設として最新医療、高度医療を提供しています。また、全国レベルの多施設共同研究を強力に推し進めています。
当科での血液臨床における中心領域の一つは造血器腫瘍に対する診断、治療としての化学療法、分子標的療法、造血幹細胞移植療法です。急性白血病に対する化学療法は抗がん剤の多剤併用療法により約80%の患者が完全寛解に到達し、その中から長期生存例も多数認められるようになり、治療法は確実に進歩しています。さらに、適格な診断に基づいて分子標的療法の併用や、同種造血幹細胞移植の適切な実施が治療成績の向上に大きな役割を果たしてきました。
 日本の白血病治療の発展を支えてきた治療研究グループの一つが、1987年に名古屋大学の大野竜三先生(現・愛知県がんセンター名誉総長)、朝長万左男先生らが中心となって設立されたJapan Adult Leukemia Study Group (JALSG)です。全国約200施設が加入して、多数の治療プロトコールを立案、実施し、治療成績が発表されています。当科はJALSGの中で形態診断の中央診断施設およびデータセンターを務め、白血病に対する診断・治療開発研究を積極的に推し進めています。また、造血不全に対しても厚生労働省特発性造血障害に関する調査研究班に属して診断・予後研究を中心に臨床研究を行っています。
 悪性リンパ腫に対する化学療法も、厚生労働省がん治療研究班を母体としたJapan Clinical Oncology Group (JCOG)に参加し、臨床研究を主体して治療を行っています。中でも成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)に対する治療研究では、当科が研究事務局を務め、中心となって臨床試験を立案し研究を推し進めています。難治性血液悪性腫の代表でもあるATLですが、臨床研究によって化学療法の成績は着実に向上しており、現在も治癒を目指した治療法の開発に向けて研究を進めています。
 造血幹細胞移植の領域では、急性白血病、骨髄異形成症候群、ATLなどを対象とした同種移植、また悪性リンパ腫、多発性骨髄腫を対象とした自家移植を施行しています。同種移植は血縁者間移植、骨髄バンクドナーからの非血縁者間移植、臍帯血移植を行っており、1990年から現在まで250を越える症例を経験してきました。ATLに対する同種造血幹細胞移植を積極的に実施しています。長崎県内には当科以外にも、関連病院である佐世保市立総合病院、国立病院機構長崎医療センターにおいても移植を行っており、造血幹細胞移植ネットワークを形成して県内の移植医療の充実を図っています。
 上記のように診断・治療を中心とした臨床研究に加えて疾患の予後解析も積極的に進めています。一方、基礎研究の分野では、造血器腫瘍を中心に分子生物学的手法を用いた病態解析研究を行っています。特に、臨床的観察から見いだされた白血病など疾患の病態を分子レベルで解析することに力を入れています。そのほかにも2002年に採択された長崎大学21世紀COEプログラム「放射線医療科学国際コンソーシアム」、2007年に採択された長崎大学グローバルCOEプログラム「放射線健康リスク制御国際戦略拠点」に参加し、原爆被爆者に見られる血液疾患の解析、中でも被爆者における白血病、骨髄異形成症候群の研究など、放射線医療科学の研究に貢献しています。

 血液内科学の分野は基礎研究で得られた新たな知見が、次々と実臨床に応用されており、この20年間だけでも目覚しい展開を示しています。当科ではエビデンスに基づいた標準治療を提供しつつも、多施設共同臨床試験、新薬の治験などにより新たな標準治療を目指した活動にも力を注いでおります。

歴代教授

初代:朝長正允教授
初代 朝長 正允 教授
(ともなが まさみつ)
大正5年9月6日 長崎県で出生
昭和16年12月 長崎医科大学卒業
昭和21年 4月 長崎医科大学副手 景浦内科
昭和24年12月 長崎医科大学助教授 景浦内科
昭和29年 4月 長崎大学助教授 医学部筬島内科
昭和34年11月 広島大学教授 医学部附属原子放射能基礎医学研究施設
昭和36年 4月 広島大学教授 原爆放射能医学研究所
昭和40年 8月 長崎大学教授 医学部附属原爆後障害医療研究施設
昭和43年12月 長崎大学医学部附属原爆後障害医療研究施設長(~45年11月)
昭和46年 7月 在任中病没
二代:市丸道人教授
二代 市丸 道人 教授
(いちまる みちと)
大正13年12月26日 北海道札幌市で出生
昭和25年 3月 長崎医科大学卒業(旧制)
昭和26年 4月 長崎医科大学第二内科入局
昭和34年 2月 長崎大学医学部附属病院講師
昭和35年 5月 長崎原爆傷害調査委員会臨床部
昭和40年 9月 長崎大学助教授 医学部附属原爆後障害医療研究施設治療部門
昭和47年 月 長崎大学教授 医学部附属原爆後障害医療研究施設
昭和53年11月 第20回日本臨床血液学会総会長
昭和61年 5月 IPPNW(核戦争防止国際医師会議)国際評議員
平成 2年 5月 長崎大学名誉教授
平成 3年 7月 佐世保市立総合病院長(平成7年3月まで)
平成 7年 8月 サンレモリハビリ病院長
平成15年 瑞宝中綬章受章
平成17年 第6回永井隆平和記念・長崎賞受賞
長崎新聞文化章受賞
三代:朝長万左男教授
三代 朝長 万左男 教授
(ともなが まさお)
昭和18年 6月 5日 長崎県で出生
昭和43年 長崎大学医学部卒業
昭和47年 原研内科 助手
昭和50年 原研内科 講師
昭和59年 カルフォルニア大学ロスアンゼルス校血液腫瘍科
(文部省在外研究員)
昭和61年 原研内科 助教授
平成2年 長崎大学医学部(原研内科)教授
平成11年 7月 長崎大学医学部附属病院副院長(平成13年まで)
平成14年 4月 文部科学省21世紀COEプログラム
「放射線医療科学国際コンソーシアム」拠点リーダー
平成15年10月 第45回日本臨床血液学会総会 会長
平成17年 5月 第8回国際MDSシンポジウム 会長
平成18年 4月 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科長
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