研究内容

甲状腺癌の悪性化メカニズム

甲状腺癌は多彩な組織亜型を持ち、経過観察可能で悪性腫瘍とは呼べないような微小乳頭癌から、生命予後がわずか数ヶ月の未分化癌まで非常に幅広い悪性度を呈します。癌の様々なステージを研究できる興味深い対象であり、その研究成果は他の癌腫にも応用できるものと考えています。

甲状腺癌の真の罹患数は非常に多いと言われており、韓国では最新の超音波診断装置による甲状腺検査を健康診断に導入した結果、甲状腺癌の罹患数が15倍に増加し、大きな問題となりました。日本でも成人女性に対して超音波による検診を行うと、癌の発見率が1%を超えるとする報告もあります。しかし、その多くは上記のように臨床的には問題とはならない微小乳頭癌であったと考えられます。その他の特徴としては、女性に多く、様々なホルモンの関与もあります。遠隔転移したような症例でも放射性ヨード治療で治癒することがある癌でもあります。逆に放射線治療抵抗性の難治性癌もあります。また、当教室の大きなテーマである、放射線被ばくによって生じる癌でもあります。


上記のような甲状腺癌に対して、当教室で行っている具体的な研究テーマは以下の通りです。


甲状腺癌を引き起こす遺伝子異常

より悪性度の高い甲状腺癌に変化する分子メカニズム

上記の研究成果を使った新しい分子診断法・治療法の開発


甲状腺癌になりやすい遺伝子型

放射線被ばくした際に甲状腺癌になりやすい遺伝子型

放射線被ばくがどのようにして甲状腺癌を引き起こすか

通常の甲状腺癌と放射線被ばく後に生じた甲状腺癌の違い


放射線生物影響研究

放射線被ばくによる健康影響は、細胞内にDNA二重鎖切断が誘発されることが出発点となります。被ばく線量が大きく、DNA二重鎖切断が全て修復できない場合には細胞死が起こり、急性障害が顕在化します。一方、DNA二重鎖切断が誤修復されたときには発がん変異が生じて、晩発障害であるがんの原因になりますが、これら生物影響発症の分子プロセスにはまだまだ未解明な部分が多く残されています。原発事故や核テロにともなう放射線災害医療に資する基礎研究として、急性障害につながる組織応答の統合的理解や、放射線による発がん機構の全容解明を目指しています。さらに、人類の宇宙空間への進出や放射線治療の高度化を念頭に、放射線障害の軽減や増感を目指して、以下のテーマを中心とした研究を展開しています。


DNA損傷応答と老化様細胞死の分子メカニズム解明

DNA損傷プローブを用いた生物線量評価系の開発

低線量率・低線量慢性被ばく影響の動物モデルによる解明

放射線に対する組織幹細胞の応答と組織クリアランスの研究

被ばく組織における組織反応と組織微小環境の変化

発がん動物モデルを応用した放射線被ばくと生活習慣との相互作用の解析

低分子化合物ライブラリーを用いた放射線緩和剤・増感剤のスクリーニング


国内外の様々な放射線影響研究拠点とのネットワークを活用した共同研究を重点的に推進しています。


DNA損傷修復機能の欠損による発癌メカニズム

DNAは絶えず様々な損傷を受けており、生物にはそれを修復する機能が備わっています。このDNA損傷修復機能は、生命の恒常性維持に極めて重要な役割を果たしており、その機能が欠損するか弱いため、DNAが変化し、そのために癌を発症することがあります。

当研究室では、甲状腺癌や乳癌を対象として、そのようなDNA損傷修復機能と癌発症との関連や、DNA損傷修復に着目した新たな診断・治療法の開発を行っています。