長崎大学原爆後障害医療研究所 組織修復学研究分野(原研組織)

研 究

私達は、放射線や外傷によって生じた皮膚障害部位における組織修復の分子メカニズムを解明し、その結果を基盤として新規治療法の開発を目指しています。さらに組織修復学研究で得られた知見を老化研究分野へ応用することで、組織修復学から派生したユニークな老化研究を展開することにも挑戦しています。具体的な研究テーマは下記です。
  1. 新規マルチオミクス解析(空間トランスクリプトームとシングルセル解析の包括的統合解析)の確立
  2. 炎症と組織修復の関係性を中心とした皮膚創傷治癒並びに瘢痕形成の分子メカニズム解明
  3. 治癒促進並びに臓器線維化減弱効果を有する核酸医薬の開発
  4. 炎症・組織修復関連遺伝子が関与する生体恒常性維持、腫瘍発生、加齢性疾患発症機構の解明

研究背景の概要

皮膚創傷治癒過程は、炎症細胞浸潤主体の「炎症期」、再上皮化・肉芽形成・血管新生の「増殖期」、過剰に生産された細胞外基質が分解される「成熟期」で構成される生体防御反応です。その一連の過程は、細胞表面やサイトカインを介した細胞間相互作用で制御されています。通常、創傷治癒後には瘢痕(いわゆる傷跡)が残りますが、哺乳類胎生期(妊娠第二期以前)の皮膚創傷修復部位は瘢痕形成されず、皮膚組織が完全に再生されます。そのときの創部には炎症細胞浸潤が認められないことから、炎症細胞が瘢痕形成に深く関与していると考えられています。その詳細な分子メカニズムは未だ解明されていません。

これまで私達は、炎症及び瘢痕が認められない PU.1 遺伝子欠損(KO)マウスを用いて(Martin P, Curr Biol, 2003, PMID:12842011)、皮膚創部炎症・瘢痕関連遺伝子群を網羅的に同定しました(Cooper L, Genome Biol, 2005, PMID:15642097)。中でも osteopontin(OPN)が瘢痕形成に関与していることをつきとめ、さらに瘢痕形成減弱効果を有する OPN アンチセンスオリゴ(ASO)の作製に成功しました(Mori R, J Exp Med, 2008, PMID:18180311)。この一連の研究成果は、メディア(BBC News, http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/7199897.stm NewWindow )、他の学術専門誌に紹介され(Nat Med, https://doi.org/10.1038/nm0308-252 NewWindow )本研究の重要性が認められた瞬間でした。

本研究の最も興味深い知見は、瘢痕化の起点は、微小環境における少数派の線維芽細胞より開始されていたことでした。この細胞群が瘢痕の鍵であると考え、現在は創傷治癒研究に資するマルチオミクス解析の技術開発を行い、その解析技術を基盤としてユニークな研究を展開しています。

従来の創傷治癒研究は、発生生物学的視点から多種多様なモデル生物(ヒドラ、プラナリア、イモリ、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、マウスなど)を用いて行われています。私達は特にゼブラフィッシュ、ショウジョウバエ、そしてマウスから得られた結果を統合して、複雑な組織修復の分子メカニズムの解明に取り組んでいます。このように様々なモデル生物を積極的に用いて研究を行っていることも私達の研究グループの特徴の一つです。

共同研究者の紹介

私達は国内外の研究者(敬称略)と協力しながら研究を展開しています。

  • (胎仔創傷治癒研究)
     貴志 和生(慶應義塾大学 医学部 形成外科学・教授)
  • (新規ゲノム編集技術を用いた遺伝子改変マウス作製)
     水野 聖哉(筑波大学 医学医療系・教授)
  • (空間トランスクリプトーム解析、シングルセル解析)
     奥崎 大介(大阪大学 免疫学フロンティア研究センター・准教授)
  • (バイオインフォマティクス解析)
     瀬尾 茂人(大阪大学 大学院情報化学研究科・准教授)
  • (放射線皮膚障害研究)
     香﨑 正宙(産業医科大学 産業生態科学研究所・講師)
  • (ゼブラフィッシュ、ショウジョウバエを用いた機能解析)
     Paul Marin(University of Bristol、UK・Professor)
  • (ショウジョウバエを用いた機能解析)
     松林 完(Bournemouth University、UK・Senior Lecturer)
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