ごあいさつ

Deoartment of Radioisotope Medicine
Atomic Bomb Disease Institute, Nagasaki University


  • 長崎大学原爆後障害医療研究所
  • アイソトープ診断治療学研究分野(原研放射) 教授
  • 工藤 崇

当教室はアイソトープ診断治療学の臨床応用と放射線生物学の基礎研究の教室として、2012年より再出発いたしました。
2010年に着任いたしました、工藤崇と申します。よろしくお願いいたします。長崎生まれの長崎育ちですが、18歳より京都大学に入学し、その後主に関西・近畿圏で働いてきましたが、2010年1月1日に長崎に帰って参りました。
医療における放射線は二つの側面があります。一つは被ばくと発がんなどでイメージされる負の側面。もう一つは画像診断や放射線治療に代表される正の側面です。
私の専門は、微量の放射性同位元素を体内に投与して診断治療を行う医学「核医学」と呼ばれる領域です。核医学では、生体の持つ機能、たとえば心筋の血流が低下することによって生じてくる狭心症を始めとする虚血性心疾患の診断、アルツハイマー病を始めとする認知症や脳血管障害の血流代謝評価による診断、今やがん診断学の花形となったPETによる診断などを研究します。また、診断のみでなく、I-131を始めとする放射性同位元素による治療も核医学の領域に含まれます。
放射線というとどうしても負のイメージを持たれてしまいますが、今や医療において放射線の利用は無くてはならない技術です。 たとえば、原発事故で有名になってしまったI-131は、甲状腺の発がんのリスクとして恐れられていますが、その一方で、分化型甲状腺がん転移巣の治療法としては、特効薬と言っても過言ではない有効性を持っています。また、診断においても、現在普及しているFDG PETは放射性同位元素を生体内に投与して行う診断技術ですが、これなしでは癌の診療は成り立たない、という信頼性を得るようになってきました。また、認知症診断や、心筋梗塞などの虚血性心疾患診断にも放射性同位元素を用いた診断は応用されています。
しかし一方で、これらの医療行為は被ばくを伴うことも事実です。たとえば、米国における公衆被ばくの半分は医療による被ばくであり、10%は虚血性心疾患診断目的で行われる放射性同位元素を用いた診療によるものとなっています。このため、過剰診療ではないか、と問題になっています。
このように、医療にとっての放射線は負の側面と正の側面を持っており、しかもそれは切り離すことの出来ない表裏一体のものです。
当教室は放射線の負の側面として、細胞・DNAに与える影響の基礎研究を行ってきました。これらの基礎研究とともに、今後は放射線の医療利用の研究という正の側面にも着目し、医療における放射線・放射性物質の適正な利用に寄与していく所存です。
今後ともよろしくお願いいたします。