長崎大学原爆後障害医療研究所 腫瘍・診断病理学分野(原研病理)

研究室について

トロトラスト症 病理資・試料データベース

長崎大学原爆後障害医療研究所 生体材料保存室(原研試料室)では、トロトラスト症に関する貴重な病理資試料データベースを整備・管理しています。トロトラストは、1930年代から1950年代にかけて広く使用されたX線造影剤であり、体内に注入された放射性物質である二酸化トリウムが肝臓や骨髄などに長期間沈着し、内部被ばくを引き起こします。この結果、数十年の潜伏期間を経て、肝血管肉腫、肝内胆管癌をはじめとする様々ながんが発生することが知られています。この一連の病態はトロトラスト症と呼ばれ、ヒトにおける代表的な医原性内部被ばくのひとつと位置づけられています。

本データベースは、旧文部省・旧厚生省の研究班が全国から収集した症例を基に、福本学博士(東北大学 放射線病理学)らが整備を進めてきたもので、症例に関する臨床記録、剖検記録、病理組織ブロック、プレパラートなどの現物資試料とともに2023年までに長崎大学へ寄託・移管されました。登録症例数は668例におよび、国内最大規模のトロトラスト症資試料群と考えられています。原研試料室では、年齢・性別・疾患発症状況といった臨床情報、トロトラストの注入量・累積線量といった放射線物理学的情報、さらには病理組織ブロックから得られる病理学的情報をさらに詳細にデータベース化し、トロトラスト症に関する総合的な研究・解析体制を構築しています。

今後は、病理診断の再検討・再分類、より詳細なレベルでの線量再評価、保存された病理組織ブロックからの核酸抽出、分子レベルでの解析などを進めることで、多角的な視点から内部被ばくと発がんのメカニズム解明に挑戦していきます。このデータベースを用いた研究は、内部被ばく影響の長期的な評価や医原性被ばくの安全管理にも大きく貢献すると期待されています。

データベースの概要
総登録症例数 668例
剖検記録のある症例数 424例
組織ブロックのある症例数 287例
線量測定済み症例数 197例
集積期間 1935年~2001年(66年間)
年齢 平均62.1歳(8~87歳)
性別比 男性611例 : 女性51例 : 不明6例
投与後生存期間 平均36.8年(0~61年)
トロトラスト注入量 平均17.9ml(4.7~144ml)
累積線量(肝臓) 平均813.5cGy(0~2210cGy)
累積線量(脾臓) 平均1975.2cGy(0~7430cGy)
累積線量(骨髄) 平均830.7cGy(0~2840cGy)
主な病理診断 トロトラスト沈着症、肝血管肉腫、肝内胆管癌、肝細胞癌、白血病、多重がんなど
臨床情報・線量情報・病理学的情報を含むトロトラスト症資試料データベースを構築
臨床情報・線量情報・病理学的情報を含むトロトラスト症資試料データベースを構築
ページのトップへ戻る