原爆被災資料
ホーム保存資料昭和27年原爆班研究報告>Ⅳ.原爆7年後に調査した大竹町在住被爆者の血液学的所見:渡辺 漸、山本 務、広瀬文男、姫野多喜男、平本忠憲、松浦憲治、内田義雄、大下徹夫、大下浩二、山本 武、藤谷昭平、山田 明


昭和27年原爆班研究報告


Ⅳ. 原爆7年後に調査した大竹町在住被爆者殊に當時の大竹町勤労奉仕隊日野隊の血液学的所見
広島医科大学病理学教室(指導:渡辺漸)山本務、広瀬文男、姫野多喜男、平本忠憲、松浦憲治、内田義雄、大下徹夫、大下浩二、山本武、藤谷昭平、山田明

 大竹町在住被爆者278名(その中日野隊160名)に就て血液学的検索を実施した。
 赤血球数(第1表):最高526万、最低216万で、全体として軽度の貧血が認められる。
 色素係数(第2表):最高1.9、最低0.4で低色素性のものが若干増加しているが全般としては正常域のものが多くて著変を認めない。
 白血球数(第3表):最高10,600、最低1,600で5,000以下の例数約46%を示し、殊に3,000以下の例数24例の多きを数え、被爆7年後の今日も尚相当度の白血球減少症の存在することが明かである。
 白血球百分率:好中球の減少とそれに伴う淋巴球の比較的な増加がある(第4表)。好中球は最低15%で35%以下の例数21%強を示し、淋巴球は最高79.5%で60%以上の例数14%弱を示している。又顆粒球系幼若細胞の出現があり、時には骨髄芽球も見出され、いずれも少数ではあるがその例数は115例の多きに達し、且つ白血球減少症の強い例に可成多く見出される。この事は白血球減少症に対する反応性乃至代償性の変化としても考えられるが又被爆後に見られる白血病の発現に先立って果して斯る幼若細胞の出現があるか否かの問題と関聠して追及する必要がある様である。更に好酸球の著明な増加(最高30%)を示す症例若干数(20%以上9例)がある。これに就ては寄生虫症等の疾患も考えられるが、それよりも顆粒細胞減少症の恢復期に廔々見られる反応性且つ一過性の増加と見做され、又或は前記幼若細胞の血中出現に就て述べた様な事も考えられる。
 白血球数と被爆位置との相関関係(第5表):一般に爆心地に近く被爆した者に白血球数減少症が若干強い様である。
 日野隊160名は總員が殆ど全く同じ條件で被爆した点が特徴である。
 この隊の年令と白血球数、赤血球数及び好中球数との相関関係を見るに、高年者にそれ等の減少が強く低年者に弱い傾向がある。又この隊の急性障害の程度と白血球数、赤血球数及び好中球数との相関関係の於ても亦急性障碍の強い者程それ等の減少が稍々強い様である。
 以上の成績より、原爆7年後に於ける大竹町在住被爆者に中等度の好中球の減少とそれに因る中等度の白血球減少症及び淋巴球の比較的増加、顆粒球系幼若細胞の末梢血液中への若干の出現並びに軽度の正色素性の貧血が認められ、更に好酸球では数例に著明な増加が認められた。この成績は即ち原爆被爆による骨髄の障碍が今尚残存している証左であって、殊に顆粒球系造血能に強く障碍が残存している事を実証している。次に爆心地に近く被爆した例に白血球減少症のより強い事より、顆粒球系造血能の障碍がその当時斯る例に強く、従ってその恢復もおそい事を知った。尚日野隊の調査では高年者及び急性障害の強かった者に白血球、赤血球及び好中球の減少が若干強く、即ち骨髄造血能の恢復が充分でなく、若年者及び急性障碍の弱かった者にその傾向の少い事が認められた。
 最近被爆後更に被爆地に在留した人々に於て、一次性放射障碍以外に体外性誘導放射能による障碍が、殊に慢性放射障碍の場合に如何なる役割を演ずるかが問題になりつつある時に際して、大竹町在住被爆者に関する本症例は一次性放射障碍のみに起因するものとして興味がある。

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