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被爆による母体環境の変化が胎生期臓器形成に及ぼす影響 |
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長崎ABCCとの共同のもとに、長崎市域から蒐集しつつある胎児並に新産児屍について、主として被爆による母体環境の変化が胎生期における臓器形成に及ぼす影響を考察している。
すでに観察した胎児並びに新産児屍は総計470例であって(昭和22年9月から昭和27年8月まで)、そのうち父のみ被爆したもの42例、母のみ被爆したもの86例、父母ともに被爆したもの152例、計280例であり、父母のいずれも被爆しなかったものが190例である。胎児に並に新産児屍にみとめられた形成異常は被爆例72(25.7%)、非被爆例38(20.0%)であって、父母の被爆、爆心からの距離、形成異常の種類などによって被爆例72を分類してみると(別表)、いままでのところでは、被爆例においてとくに形成異常が多いとは考えられないようである。かかる考察には慎重を期すべきであって、材料蒐集及び研究進展の現況では結論的なことは言えないと思っている。
被爆例にみとめられた形成異常については、父母の被爆、爆心からの距離に関する差異、被爆例のみに特異的にみられる形成異常の種類などを検討しているが、これらの考察には被爆時における父母の臨床的経過、物理的並に地形的状況、被爆時から受胎までの時間的条件などの要約をも考慮しなくてはならないので、少なからぬ困難を以て調査をつづけている。
被爆例にみられた形成異常の特異性に関しては、胚葉性および器官系統にもとずく発生要約のほかに、胎生期における全般的な組織成分の発生、生長の差異をも追求している。
一般に死産、流産胎児屍にみられる疾病(形成異常以外)の発生、進展についても比較観察しているが、いままでには、被爆例においても特異的な差異はほとんどみとめられていない(別表)。
胎児及び新産児屍のごとき材料を蒐集するときにみられがちな、供給源の社会的条件にもとずく對象の偏寄り、母体の栄養的環境及び疾病ことにビールス性疾患などのごとく、被爆してからの二次的な母体環境の変化による影響をも考慮しなければならぬと思っている。 |
2) |
胎児、新産児屍並に成人屍における内分泌腺の被爆による病理組織学的変化 |
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被爆によって内分泌腺に特異的な変化がみとめられ、また胎生期における臓器形成が母体並に胎児の内分泌的環境によって支配されることがあるから、被爆による母体環境の変化が臓器形成に及ぼす影響に関聠して、被爆した成人屍における内分泌腺の後遺的変化並に胎児、新産児屍における内分泌腺形成の異常を併せて観察したいと計画している。 |
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被爆した成人屍における口腔並びに歯齦粘膜の病理組織学的研究 |
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被爆によって著明ば壊死性口内炎、歯齦炎を発生し、その後遺的所見が臨床的にもみとめられるということから、病理組織学的な観察によって、その基礎づけを試みるべく材料の蒐集をはじめている。 |
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