原爆被災資料
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昭和27年原爆班研究報告


長崎大学医学部 外科 調 来助
 長崎市に於ける原爆受傷者の外科的後遺症調査
 長崎大学医学部 調 来助 外 教室一同

[目的]
   余等は昭和21年8月、22年9月、24年1月と3回に亘り原爆後遺症の調査を行い、初期には火傷患者に67%、外傷患者に21%の瘢痕ケロイドを発見し、而も之等を手術的に切除しても大多数に於て再発を来すことを認めたが、時日の経過と共にケロイドは自然治癒の傾向を示し、手術後の再発も著しく減少したことを第3回調査に於て確認した。原爆後満7ヵ年を経過した今日、原爆ケロイドは如何なる状態にあるか、其他原爆によって受けた火傷及び外傷は今日如何なる経過を辿りつつあるか、若し四肢に運動障碍あらば此等は手術によって改善し得るか否か等を観察せんとして本調査を企てたのである。

[調査材料並に方法]
   本年4月長崎市社会課に於て調査した原爆受傷者840名に手紙を出し、市内20ヵ所の診察所(各地區の小学校)に集るようお願して、8月20日より30日までの間に檢診した。中には直接患者宅を訪問したもの、及び調査期間後に患者が来院したものも数人ある。

[成績]
   余等の檢診し得た後遺症患者は男123、女167、計290人に過ぎなかった。受傷当時の損傷種類は表1に示す如く熱傷が最も多く、硝子創が之に次ぎ、骨折及び脱臼は少ないが、平時外科に於て殆ど見られない手関節及び膝関節の脱臼が見られたことは、原爆に特有と云ってもよいと思う。
 此等損傷の後遺症は表2の通りで、現在尚肥厚性瘢痕の状態を呈するものも少なくないが、ケロイドは極めて少く、多くは普通の單純性瘢痕となっている。
拘縮は肥厚性瘢痕によるものが大部分を占め、他は骨折及び脱臼による。神経麻痺は硝子破片による神経幹の離断で、尺骨神経麻痺が大多数である。異物は總て硝子片で、耳殻奇形は顔面火傷の化膿により軟骨炎を起し、ついに柔道家や力士に見る如き耳の変形を生じたものである。
 原爆ケロイドは今日多くは單純性乃至肥厚性瘢痕に移行し、唯辺縁の一部に小ケロイドを殘すものと雖も僅かに火傷の6.3%、外傷の0.9% に過ぎない。而も12例中3例(火傷の2例及び外傷の1例)は灸痕或は昆虫刺痕にケロイドを生じた先天性ケロイド体質所有者と思われるものであった。以上の点より考慮して、原爆により発生したケロイドは先天性体質所有者を除き、他は總て完全に自然治癒を営むものと考えられる。
 原爆ケロイドの成因については種々の説が行われているが、余は(1)火傷の瘢痕のみならず外傷の瘢痕にも生じたこと、(2)早期に手術したものは一般ケロイドと同様に術後再発を見たこと、(3)自然治癒を営み、且つ晩期手術例では再発を起さなかったこと等の理由により、放射能による一時的の体質変化が其の原因と考える。この体質変化は恐らく内分泌臓器(甲状腺或は副腎)の一時的障碍に基くものと思うが、其点については目下研究中である。

[未発表論文]  調 来助
 
1. 長崎に於ける原子爆彈傷害の統計的観察
(360字詰、約30枚)
2. 長崎に於ける原爆受傷者の外科的後遺症
(360字詰、約25枚)

[學会報告]
 
1. 長崎に於ける原爆受傷者の外科的後遺症、特にケロイドに就て
第一回原子爆彈災害調査研究班協議会(廣島) 
昭和27年9月.    調 来助 外教室一同
2. 外科より観たる原子爆彈傷害に就て
第○回九州医学学会総会第8分科会(鹿児島)
昭和27年10月.   調 来助 外教室一同

[既発表論文]
 
1. Medical Survey of Atomic Bomb Casualties
Raisuke Shirabe
広島ABCCにて印刷。米國関係方面にはABCCの手にて頒布せし由、未だ米國医
学雑誌には発表なき模様。
この原著は「調」が保管。近日中短縮発表の豫定。
2. Round Table Discussion
Nagasaki :Medical College
長崎ABCCにて原稿製作。広島ABCCにて印刷。
米國関係方面には既に頒布せられたると思う。

所蔵 広島大学放射線医科学研究所
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  原爆の医学的影響:西森一正  
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