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目的 昭和20年8月長崎市の一角に原子爆彈が炸裂し、莫大な損害を与えた。當時の惨状に就いては種々調査報告があり、又原子爆彈の残存影響力に就ても、各方面から研究されているが、吾々は女生徒の初経来潮期の面から統計的吟味を加えた。即ち、原子爆彈が初経来潮期に何等かの影響を与えるものであるか、爆心地からの距離別により、初経期に何等かの差違を生ずるものであるかを、主要目的とした。 |
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方法 調査は、昭和22年12月、24年12月、26年6月の3回に互って行った。対象は長崎市内学校女生徒、第2回、第3回よりは、対照として諫早市学校女生徒を加えた。まづ、所要事項記入の調査票を各学校の学級毎、又は学年毎に配布し、調査目的、記載例を懇切に説明し、その場で直ちに記入させて、内容の正確を期し、記載完全な者のみを集計検討した。
遮蔽関係(地形、場所、衣類)も重要な要素と考えられるが、長崎の地形極めて複雑な為、分類の煩雑を避けて、單に爆心地からの距離差によって分類した。 |
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結果
第1回調査 (昭22.12.) 爆心地からの距離差、及び被爆時年令との相関に於て、表を作り、その初経年令を調査するに、初経来潮期に一定の差違を認めない。
第2回調査 (昭24.12.) 初経期に特定の差異を認めない。
第3回調査 (昭26.6.) 本回では未だ月経のない者も対象とし比較検討した。距離別と初経年令との相関で数値を檢討するに、爆心地に近い丈、初経来潮期が早くなる傾向を認めるが、調査時年令(被爆時年令に換えても同意)毎に檢討するに、距離別による差違を認めない。また、月経のない者(爆心地に近い丈漸次多ければ、初経来潮期が遅れるかもしれないことを示す)も、距離別と一定の関係を有する数値を示していない。 |
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考按 吾々の調査は、前記3回に互って行い、吾らの分類法では、原子爆彈による初経期の変化は認めなかった。即ち、現在概ね健康に暮している者には、初経来潮期に影響を及ぼす程の原子爆彈の影響力は残っていないのではないかと思う。勿論、吾らの調査対象とした女生徒の中、未だ月経の無い者が何時から来朝するか不明であり、断定的な事は言えない。(女学生を対象として、初経期を調査する際の難点は 未だ月経のない者が来朝する時期により平均初経年令は如何様にも変化し得ることであり、この意味で年令的構成の吟味が必要である。)が、調査時期に於ての初経期の大要は知り得ると思う。 |
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備考 昭和28年2月 第4回調査を行う予定 |