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本年度第7回永井隆記念長崎平和賞を受賞されたオブニンスク医学放射線研究所MRRC-RAMSのTysb所長らの歓迎を受け、11月1日斉藤学長と署名交換された学術交流協定書第二期5年間の活動計画に基づきGCOEの共同研究打合せを各部門の長と行った。特にチェルノブイリ原発事故前から不定期に住民健康診断、超音波甲状腺画像診断を主導したParshin博士との具体的共同研究が合意され、Tula州在住の5000名に及ぶ除染作業者の甲状腺検診、Tula,
Orel, Kalugaに加えBryansk州の4州における固定集団に対する甲状腺超音波診断、さらに血液検査における共通プロトコールの策定を予定する。これは従来チェルノブイリ笹川プロジェクトのロシア連邦拠点であるKlincy診断センターとの共同プログラムを策定することで、Parshin博士らがSteputin医師らと協力して症例の検討を行うこととし、来年3月中旬には高村先生、大宮調整官がKlincyを訪問する折に具体的な協議に入る予定とする。この間の準備をParshin博士と大宮調整官が対応する。なお第4版目となるロシア語甲状腺超音波診断アトラスの作成は来年末をめどに共同出版事業としてGCOEでの成果集とすることで今後準備を進める。
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(左図;今後の超音波甲状腺診断における共通検診指導体制の構築で合意。右図;Tysb所長以下Ivanov副所長、Saenko副所長、Lushinikov放射線医学部長、Natasha国際担当) |
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GCOE交流事業としての人材交流は積極的に推進するが、同時に医学放射線研究所に付属放射線医学部が新たに創立され学生を50名募集する。核医学や放射線医学、被ばく医療に特化したロシア連邦唯一の医学部の創設となりビルツブルグ大学核医学総合診療部を凌駕する陣容、機材の整備が予定され、長崎大学との協力関係も模索されることになる。従来交流実績がある甲状腺、血液分野に加えて再生医療などでのCOE研究員やポスドク招聘が新たに合意される。
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(左図;過去長崎に招聘され共同研究や留学生としての経験を積みオブニンスクへ戻った先生方。右図;右から二番目が原研国際客員教授候補のPavel
Roumyntsev頭頚部外科医) |
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Ivanov副所長は放射線疫学部門長であり、すべてのロシア連邦被ばく関連登録の取りまとめ責任者であると同時に放射線リスク評価・管理の責任者である。UNSCAREARの2007年最終報告書に貢献し、同時にICRPのタスク作業にも関与し、貴重な最新データを供覧すると同時に、ロシア語報告書と発表スライド原稿を提供してもらえた。国家登録National
Radiation-Epidemiological Registryのセンターとして機能し、Radiation Riskの定期刊行雑誌も発刊している。その為、放射線疫学ならびにリスク評価・管理に関するワークショップ開催が検討され、来年7月初めにこれら放射線リスク問題に加えて、重要臨床課題を取り上げた会合をオブニンスクで開催することが提案された。なお毎年6月末には1週間全ロシアから放射線生物学関連セミナーが開催される為、今後とも大宮調整官、スタス、ナターシャらも入れてセミナー参加とワークショップ開催を協議準備することとした。なお来年1月15日にはMaksutov副部長が放射線影響協会主催の国際チェルノブイリシンポジウム発表のため東京に来日し、さらにIvanov副所長も1月31日からのGCOE国際シンポジウムに長崎に来られるので柴田先生らと具体的な行動計画を立てることとする。Chekin室長のSNPsに関する数学的解析方法の発表は、multiplication
analysisでの独立した遺伝子のSNPsの複合的なリスク評価方法であり、専門的な知識なくしては理解できないものであるが、大変参考になり今後の共同研究の大きな発展が期待された。本件は原研国際のVladimir
Saenkoを中心として推進することで合意した。
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平成20年度原研国際の客員教授はロシア連邦の学術交流協定校からの推薦を受ける条件で、従来の選考内規からTsyb所長に推薦を一任した。その結果甲状腺外科医であるPavel
Roumyntsev医師38歳と、血液学のStanislav Shkyalev医師39歳がそれぞれ半年づつ推薦された。なお平成20年度NASHIM夏季研修生としてはオブニンスク医学放射線研究所の放射線生物学専攻の学生が推薦された。
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Sasha AbrosimovがLushikov教授の元を去り、モスクワ内分泌代謝研究所病理・細胞診部門主任に抜擢され、同時にLantosov病理医もKaluga州立がんセンターに異動した為、チェルノブイリ甲状腺組織バンクCTBの維持管理運営は若い二人の女性病理医の双肩にかかることとなる。さらにロシアでも遺伝子関連検体の国外持ち出しが厳しく制限され、本分野での共同研究の推進に問題を投げかけている。今後解決方法を模索する必要がある。またこのバンクとは独立して甲状腺がんの検体が収集されているが、その利用についてはCTBとの関連性も考慮し課題解決に努力することとなる。
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モスクワ内分泌代謝研究所はDedov所長の時代から15年近く交流があり、人材交流と共同研究で成果を出していたが、この7年以上音信不通に近い状況であった。理由はチェルノブイリ笹川プロジェクト10ヵ年事業の2001年終了とセミパラチンスクへの医療協力に軸足がシフトしたことが大きいが、全ロシア最大の内分泌代謝研究所であり、現在研究所は政策医療に従い慢性生活習慣病、甲状腺疾患、内分泌がん検診など極めて広範囲な臨床と研究を展開している。今回、長年の共同研究者であったオブニンスク医学放射線研究所のAbrasimov病理専門医の昇進異動に伴い、また各種内分泌代謝関連の共同研究と人材交流のために長崎大学との学術交流協定の打診ならびに具体的な研究テーマについて関係者と協議を行った。Dedov所長は本年から保健省高等科学推進委員(顧問)へ昇進し、所長職はGalina
Merichenko内分泌総合医に譲られた後も実権を掌握し、Putin政権の重要な医療提言と国家予算への進言を行う立場にある。今回久しぶりの再開であったが長崎大学との内分泌代謝研究および露日学術交流に関して全面的な協力を約束され、さっそく双方でのワークショップが提案された。副所長のValentin
Fadeyev甲状腺専門医は若くて有能であり、またGerasimov教授の教え子であるEkaterina Troshina内分泌治療主任かつIDD主任は、極めて友好的で甲状腺疾患全体での共同研究が可能である。症例数も多く、小児内分泌の専門医からは具体的な遺伝子解析を依頼され今後の共同研究のテーマとすることとした。最後にAbroshimov病理主任との協議では、甲状腺細胞診と病理診断のPitfallに関する教科書作成で合意し、CASTLEや稀な診断例については穴見先生らに協力してもらうことで連携することとした。なおCTBへの申請課題である甲状腺濾胞腫瘍の多面的な病理・遺伝子解析も本研究所を中心としてオブニンスク、長崎大学との共同研究とすることで合意した。
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(左図;Dedov高等技術政府委員。右図;Galina
Merichenko内分泌代謝研究所所長) |
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