長崎大学グローバルCOEプログラム「放射線健康リスク制御国際戦略拠点」
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ゲノム安定性維持に関する会議・参加報告

原爆後障害医療研究施設分子診断学 鈴木啓司


2008年3月4日から7日までの4日間、メキシコハリスコ州のpuerto vallartaにおいてゲノム安定性の維持に関する国際会議が開催された。本会議は、DNA損傷修復応答の分野で世界的権威であるケンブリッジ大学のStephen Jackson博士と、DNA損傷修復やチェックポイント、細胞周期制御、アポト_シスなど生物学全般の最先端の分野を切り開く抗体の販売で広く知られるAbcam社の共催で開催された。総勢150名を超える参加者が集う今回の会議では、DNA損傷修復関連の各分野の第一人者が講演者として招待され、同分野の最先端の研究に触れる希有の機会であった。

従前から、DNA損傷修復及びチェックポイントの分野では、酵母を材料に用いた研究がほ乳類細胞を用いた研究を先導することがよくあったが、今回の会でも、多くの発表が酵母を用いてなされた研究のものであった。もちろん、酵母で見いだされた分子は、大半が種を超えてヒト細胞にも存在するが、もともと細胞周期に大きな違いのある両種の間では、その機能に違いが出ることは容易に予想され、事実、興味ある分子の変異の放射線感受性に対する影響は、酵母で求められたものと違う結果が出ることもあり、その解釈に注意を要するという感を強くした。

ヒト細胞あるいはほ乳類細胞を用いた研究報告から、以下にいくつか興味ある最新の知見を列挙する。まず、従来から、リン酸化修飾を元にDNA損傷チェックポイント因子の複合体が形成されることはよく知られていたが、あらたに、MDC1とNBS1との相互作用を規定する修飾が特定された。驚くべきことに、その修飾とは、CK2によりあらかじめ行われているリン酸化であった。この研究から、放射線に細胞が曝された後にATM依存的にクロマチン内のヒストンH2AXがリン酸化されるが、そこにリクル_トされるMDC1はすでにリン酸化を受けており、そのことにより効率的に下流の因子であるNBS1を局在化させられることが明らかになった。つぎに、MDC1はATMによりさらにリン酸化される部位を有するが、このリン酸化が新たな分子であるRNF8をリクル_トすることが報告された。RNF8はUBC13とともにヒストンH2AXのユビキチン化に関わる因子で、この修飾によりさらにクロマチン構造が変化し、そのことによってDNA損傷情報が増幅されていくという仮説が提唱された。

以上のように、細胞の放射線に対する応答を理解する上で極めて重要な発表がいくつもなされたわけであるが、このような分子レベルでのメカニズム解明は、放射線による発がんの分子メカニズムの解明に大きく貢献することは間違いない。また、より効率的な放射線治療を目指した放射線増感剤の開発にもその情報が利用されている。さらに、このような初期応答のメカニズム解明がひいては放射線リスクのより適正な理解につながることを信じてやまない。
 
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