長崎大学グローバルCOEプログラム「放射線健康リスク制御国際戦略拠点」
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Ataxia Telangiectasia Workshop 2008・参加報告

原爆後障害医療研究施設分子診断研究分野 山内基弘


 4月22日から26日に滋賀県の大津プリンスホテルで開催された、Ataxia Telangiectasia (A-T) Workshopに参加した。このWorkshopは、基礎研究者のみならず、臨床医、米国A-T Children’s Projectの代表者、さらにはA-Tの子供の母親たちも出席しており、単なるATM蛋白質のワークショップではないことに気づかされた。セッションもほぼ毎日朝8時すぎから夕食後10時近くまであり、DNA損傷応答に関する細かい知識をまとめて仕入れ、考えることができた。未発表データを見せてくれた人たちも少なくなかった。その中から特に印象に残ったDr. Penelope Jeggoの発表について以下に記したいと思う。
 以前から放射線照射したA-Tの細胞では正常細胞よりも多くのDNA二重鎖切断が残存することが知られていたが、数年前Jeggoらは、全DNA二重鎖切断修復の10-15%にATM蛋白質が関与していると報告した。今回はさらにそれを進め、「ATMはヘテロクロマチン部位に生じたDNA二重鎖切断の修復に関わっている」という仮説を立て、その検証結果を報告してくれた。まず、NIH3T3細胞において放射線照射後のユークロマチンおよびヘテロクロマチン部位におけるリン酸化H2AXフォーカスの数を経時的に解析した結果、ヘテロクロマチン部位におけるフォーカス数の減少はユークロマチン部位よりも遅いことが分かった。さらにATM阻害剤を処理した場合、ユークロマチン部位のフォーカス数減少のカイネティクスは変わらなかったが、ヘテロクロマチン部位ではフォーカス減少が非処理群よりさらに遅くなった。以前にYosef Shilohらのグループは、ヘテロクロマチン結合蛋白質KAP1がDNA二重鎖切断生成後ATMにリン酸化されることによりヘテロクロマチンから解離し、核内全体のクロマチンが弛緩することを報告した。JeggoはこのKAP1に着目し、KAP1のATMリン酸化部位(Ser824)のアラニン置換体を発現させると、ATM阻害剤処理と同じ効果、すなわちフォーカス減少が遅くなることを見いだした。さらにヘテロクロマチン領域が少ないSuv39H1/2(-/-) MEFsやDNMT3Bに変異があるICF syndrome細胞でも、リン酸化H2AXフォーカスの減少がATM阻害剤処理で変わらなかった。これらの結果からJeggoはATMはHeterochromatin部位に生じたDNA二重鎖切断修復に関与していると結論づけた。
 本研究の新規性は、ATMはヘテロクロマチン部位に生じたDNA二重鎖切断の修復に関わっていることを証明したことにある。これまでATMは全DNA二重鎖切断修復の10-15%にATM蛋白質が関与していることは分かっていたが、どのようなDNA二重鎖切断の修復に関与しているかは明らかではなかった。
 本ワークショップを通じて感じたことは、ATM研究の大御所たちがつくっている流れに乗っても面白くないということである。誰も見抜けなかったことをたゆまぬ思考と観察によって見抜き、それを独創的なアイデアで証明することこそが研究の醍醐味であると強く感じた。
 最後に、本ワークショップに参加するにあたり、多大な援助を賜りましたグローバルCOEプログラムおよび山下俊一教授に深く感謝致します。
 
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