長崎大学グローバルCOEプログラム「放射線健康リスク制御国際戦略拠点」
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海外学会参加報告
 
 
第2回アジア放射線研究会議(ACRR 2009)報告

分子診断学研究分野  鈴木正敏


2009年5月17-20日に韓国ソウル市にて第2回アジア放射線研究連合会議が開催された。この会議では分子生物学的手法を用いた基礎研究から臨床応用へむけたトランスレーショナルリサーチまで含めた幅広い分野の研究を議論できる会議であり、事務局発表によるとアジア諸国を中心に13ヶ国から500人以上の参加者が集っていた。

今回の会議でも放射線により誘導される分子応答反応で重要かつ中心的な役割を担う分子の一つにやはりp53が位置づけられていた。その中でp53が活性化するために必要なp53の安定化機構に新規タンパク質が関与する発表があり、その報告を行う。この研究は韓国のLIM博士のグループから報告されたもので、がん抑制遺伝子産物であるRASSF1AがMDM2の自己ユビキチン化によるMDM2自身の安定化を制御することでp53安定化機構に関与するという仮説であった。非ストレス下においてp53はMDM2によるポリユビキチン化を受け、5-10分程度の非常に短い半減期で分解されると理解されている。このときDAXX-HAUSP (脱ユビキチン化酵素)がMDM2の自己ユビキチン化を低レベルに抑制することでMDM2の分解抑制、さらにはp53のMDM2依存的なユビキチン化が効率よく行われている。RASSF1AはDAXX-MDM2複合体に含まれているが、DNA損傷が付加されるとRASSF1AのMDM2結合能が増加する一方、HAUSPはMDM2複合体から遊離することが示された。この量的変化はMDM2上においてRASSF1AとHAUSPの結合領域が非常に近いことに起因していると考えられている。すなわち、DNA損傷に応じてRASSF1AとHAUSPのMDM2への結合能が変化することにより、MDM2のユビキチン化状態が変化し、引き続いて行われるp53のユビキチン化レベルが変化することがp53のプロテアソーム系分解機構を制御し、安定化に関与するモデルを提唱している。

私が今回発表した非アポトーシス型細胞死経路の一つである放射線誘発早期老化 (SIPS)の誘導過程においてもp53の蓄積・活性化は重要なポイントであり、p53安定化機構に関する新規タンパク質は非常に興味深い報告であった。さらにSIPSに関する研究発表も随所に見られ、アジア地域においても今後の発展が期待される研究分野であることを肌で感じてきた。しかしながら会議全体を通じてみると、“効率的な放射線治療には効率的なアポトーシスの誘導が重要である”という位置づけが大勢であったように感じられた。がん細胞に対する放射線応答反応にはアポトーシスのみならず、SIPSを含めた非アポトーシス型細胞死も実際に誘導されていることから、非アポトーシス型細胞死の分子機構を解明することが、将来的には放射線がん治療における標的因子の探索につながる一助になると思われる。そのような意義をもつ基盤研究の積み重ねによって放射線がん治療分野への基礎研究からの貢献意欲をかきたたせる3日間であった。

会場となったソウル市の国際会議場(COEX)
 
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