長崎大学グローバルCOEプログラム「放射線健康リスク制御国際戦略拠点」
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第9回国際マイクロビームワークショップ報告

分子診断学研究分野 鈴木啓司


 第9回国際マイクロビームワークショップが、2010年7月15日から17日までドイツ、ダルムシュタット市内のダルムシュタット工科大学において開催された。今回のワークショップは、ダルムシュタット郊外にある、ドイツヘルムホルツセンター粒子研究所(GSI)のDurante博士の主宰で開催されたが、前回、2008年に千葉市の放射線医学総合研究所においての開催以来、この2年間でどれほどの技術的な進歩があったか、あるいはマイクロビーム照射を応用した生物影響の解析がどこまで進歩したかが興味の中心であった。
 ワークショップは3日間の日程で開催されたが、そのうち2日間は議論を中心とした会議、最後の1日は、GSIにある粒子加速器センターの見学が日程であった。第一日目は、主に技術的な進歩について議論があったが、前回の会議の際に既にその開発が報告されていた世界各国の照射装置が、それぞれビームを出す段階まで進んでいることが明らかになった。照射源も多岐にわたり、ウラン等の重粒子も照射が可能になってきた。これらは、欧州でも活発になってきた粒子ビームによる癌放射線治療を念頭においたものであると思われるが、研究レベルで考えると、開発された放射装置で何を目的に生物実験を行うかについては議論が乏しく、それぞれのグループの到達目標が必ずしも明確でないところに隔靴掻痒の感があった。
 第二日目は、生物影響を中心とした議論が進められ、標的照射によって得られた新たな知見の報告がなされた。マイクロビームを用いた標的照射は、非標的効果の存在を明らかにできる極めて有効な手法として注目され、前回の千葉大会では、多くのいわゆるバイスタンダー効果の研究成果が報告され、議論がなされた。中でも重要な議論は、バイスタンダー効果そのものが存在するか否かという点であった。折しも、世界各国のマイクロビーム照射装置のいくつかが生物実験をするレベルまで達し、その検討の結果、標的照射によって、バイスタンダー効果が必ずしも観察されないという報告が相次いだからである。今回の会議では、その点については全く議論がなされなかったが、バイスタンダー効果は細胞腫や実験条件によって必ずしも検出されないことがあるというのが共通のコンセンサスのように感じられた。つまり、バイスタンダー効果に関する感受性が細胞側に存在するということになる。この点は、これまで明らかにされた液性因子が、細胞膜表面の受容体を必要とすることでも理解でき、この点で、従来の議論は一応の結論を得たことになるといってもいい。しかしながら、バイスタンダー効果の存在する意義やその生理学的意義については、まだ議論の余地が残されており、細胞の蛍光物質による染色効果とともに、今後も折に触れて議論すべき点である。またこの点が、今回、組織を模した実験系の発表が多いことにもつながっている。
 今回の会議で特徴的だったのは、3次元の模擬組織を用いた報告が多かったことである。高次に構築された細胞では、低エネルギーのマイクロビームはその表面の細胞だけを照射するだけで、ここは粒子ビームの独壇場である。例えば、重粒子照射による人口三次元再構築皮膚組織による細胞死の報告がなされた。このように、これまでのバイスタンダー効果に関する報告は、細胞死や突然変異、染色体異常の誘発がその指標として用いられてきたが、我々グループは、神経幹細胞を用いた実験により、標的細胞が非標的細胞の細胞分化におよぼす影響について世界で初めて報告を行った。今後は、同様の高次に構築された細胞集団や異種細胞が共存した環境、あるいは異なった胚葉系細胞間の影響等が検討されるのは必至である。
 次期ワークショップは、2012年に米国コロンビア大学で開催されることが決まったが、今度は、これから2年間の間に、どのような進歩が繰り広げられるか楽しみである。3次元の模擬組織を利用した実験はさらに拡大するであろうし、新たなビームラインを用いた実験の結果もでてくるであろう。また、細胞分化や幹細胞に対する影響の研究成果も期待される。長崎大学マイクロビーム照射装置を用いた局所領域照射の実験も、多くの研究者の興味を引いたようである。これら研究の進展が、放射線影響の、とりわけバイスタンダー効果がよりその影響を大きくする低線量放射線による影響の理解にさらに貢献することを期待したい。
 
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