長崎大学グローバルCOEプログラム「放射線健康リスク制御国際戦略拠点」
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第16回固体素子線量測定に関する国際会議 報告

先導生命科学研究支援センター 松田尚樹
医歯薬学総合研究科 森田直子


 ガラスバッジやポケット線量計などの個人被ばく線量計から、シンチレーションサーベイメータ、ホールボディカウンタといった環境および体内放射線量の測定にいたるまで、放射線リスク評価の多くは固体素子による線量測定技術によって可能となるものである。3年に1度、その固体素子線量測定の技術と応用の最前線を紹介し議論する本国際会議が、今回は初めて南半球に舞台を移し、Wollongong大学メディカルセンター医学物理部のRosenfeld教授を会長として、オーストラリアのシドニー市街で開催された。5日間の会期は、基礎物理学、応用(材料)物理学、放射線検出システム、モンテカルロ法、といった基盤研究から、マイクロ/ナノドジメトリ、線量再構築、そして環境/生物学/医学における線量測定、といった実践・応用研究への流れで構成され、また一部の期間では、宇宙被ばくと放射線診断による被ばくの健康リスクについてのサテライトセッションが設けられた。放射線物理学、放射線化学、放射線医学生物学の研究者によるオーラル発表数は100を越え、ポスター発表数は300に及び、会期を通じて大変な盛況ぶりであった。
 我々は個人線量評価(Individual dosimetry)のセッションにおいて、インド南部タミルナドゥ州沿岸部の高自然放射線地域住民67名の、ラジオフォトルミネッセンス(RPL)線量素子による個人被ばく線量評価解析結果について発表を行なった。近隣のケララ州における線量評価および健康リスク評価については報告がみられるが、ケララ州と同様に土壌にモナザイトを多く含むタミルナドゥ南部の個人線量は評価されていなかったこと、また高自然放射線地域におけるRPL素子による個人被ばく線量評価も初めてのことであったであったため、最高で14.17mSv/年の被ばく線量を観測した今回の結果は、線量測定、環境放射能、放射線基礎医学といった多様なバックグラウンドを有する参加者に興味を持って迎えられ、多くの質問を受けた。
 低線量域の放射線による被ばく、すなわち極めて密度の低い粒子あるいは光子が組織・細胞を通過した場合、DNA損傷部にリクルートされるタンパクを指標にした生物反応の局在化を指標として通過トラックを推定することとなるが、物理的にその位置と線量を測定することは困難である。香港大学のYuらのグループは、CR-39 detectorとして市販されているポリマー、PADC(polyallyldigigycol carbonate)を細胞の三次元培養基質として加工し、基質中で培養されたHeLa細胞にAm-241を線源としたα線を照射して、PADLで検出されたα粒子トラックと一致してHeLaの53BP1フォーカスが見られることを示した。一方、粒子トラックの検出されない部分にも53BP1フォーカスは観察され、これはバイスタンダー細胞ということになる。また、同様にPADCにより加工した膜上に培養したゼブラフィッシュのエンブリオのα線照射による個体致死をエンドポイントとして、低線量のスポット前照射による適応応答反応の発現も観察した。局所で生じる低線量放射線影響を明確に示すには、このような物理学的、生物学的同時検出が基本条件となろう。
 上に紹介したような細胞レベルでの局在化した線量測定は、いわゆるマイクリドジメトリの領域になるが、さらに細密にDNAレベルで線量測定スポットを限局したものをナノドジメトリと呼ぶこともある。このレベルになると、DNA損傷を誘発するだけのエネルギーを有しトラックに沿って生じたイオン化クラスターを検出することになる。ロマリンダ大学メディカルセンターの放射線科医でありかつ物理学者でもあるSchulteらは、実験的に計測した極小領域におけるイオン化数を、モンテカルロコードを用いて水層中の模擬DNAセグメントの損傷誘発量にシミュレートし、陽子、ヘリウムイオンおよび炭素イオンのLETと線質係数の関係を推定した。その結果、10keV/μm以下ではほぼ横ばい、それ以上では指数関数的に線質係数が増加することが示された。これは、特に混合放射線場における低線量影響、例えば現在は平均化線質係数を用いている宇宙被ばくにおける人体影響の推定に大きく寄与する結果である。
 医療放射線の線量評価では、主にCTとマンモグラフィに関する報告が多く見られた。CT検査の普及による国民線量の増加は世界的現象であるが、その正確な被ばく線量はCT装置自身による推定値によるところが大きい。5歳令小児ファントムを用いてヨーロッパ基準に従いCTによる照射を行ない、その被ばく線量を代表的な固体線量素子であるTLDにより測定したところ、皮膚線量は22mGy、頭部/甲状腺線量は19mGyで、実効線量は1.9mSvと評価された。また胸部CTにおける実測値は、推定値を約16%上回っていた。正確なドジメトリに基づく品質管理は正確な集団線量推定の大前提となるが、それがCTの爆発的増加をキャッチアップしていないことは明らかであろう。マンモグラフィでは、用いられる超軟X線のRBE(生物学的効果比)についての議論が続いている。光電子による二次作用の寄与が大きい50keV以下の低エネルギーX線ではLETが高く、例えば標準線質をCs-137γ線とした場合RBEが2以上になることはすでに種々の生物学的エンドポイントを用いた実験でも報告されているが、マンモグラフィ領域の超低エネルギーX線とその二次因子による影響にはまだ不確実な要素が多い。先に述べたマイクロ/ナノドジメトリを取り込んだ基礎実験の必要性は高い。
 なお、昨年長崎で開催した放射線安全管理学会に参加されたYale大学のd’Errico教授はじめ、クロアチアやブラジルからの先生方とも再会し、この固体素子による線量測定の医学生物学への応用研究におけるコンタクトを密にしていくことを確認した。次回SSD17はブラジル、サンパウロで2013年に開催されるとのことである。
 なお、本グローバルCOEプログラムからの発表者および発表演題は次の通りである。
ASSESSMENT OF INDIVIDUAL DOSE IN HIGH BACKGROUND RADIATION AREA OF TAMIL NADU, INDIA.
MATSUDA N, BRAHMANANDHAN GM, YOSHIDA M, TAKAMURA N, SUYAMA A, KOGUCHI Y, JUTO N, RAJ YL, WINSLEY G and SELVASEKARAPANDIAN S.

 
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