長崎大学グローバルCOEプログラム「放射線健康リスク制御国際戦略拠点」
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米国放射線学会(RRS2010) 報告

分子診断学研究分野 鈴木啓司


 米国放射線学会(Radiation Research Society)の2010年年会が、9月25日から29日まで、米国ハワイ州マウイ島のワイレアにおいて開催された。今回は、ハワイで開催されることもあって、日本放射線影響学会に早くから参加の呼びかけがあり、学会のプログラム作成の段階から、日本放射線影響学会からの提案も含めて計画がなされた。その中で、報告者が演者の1人として提案されたシンポジウムも採択され、もともとRRSの学会員ではあったものの、学会への招待を受けて参加するに至った。プログラムでは、19のシンポジウムを中心に、トピカルレビュー、ミニシンポジウムが午前中を中心に開催され、午後にはポスターセッションが大規模に行われた。特にポスターセッションでは、600を越える演題が報告され、多くの若手研究者や大学院生が活発な議論を交わしているところに活力が感じられた。
 さて、5日間にわたる議論は、放射線研究の幅広いトピックスについてなされ、とりわけ、放射線影響の初期過程についてや、バイスタンダー効果、低線量・低線量率放射線影響、宇宙放射線影響についてなど、重要なテーマについて活発な議論が交わされた。バイスタンダー効果に関わる問題は、昨今の放射線影響研究で極めて多くの議論が交わされている問題であるが、今もってなお、その意義については統一した見解が得られていないのが現状である。さらに、放射線リスクにおける意義やLNT仮説への関与など、その位置づけはさらに混沌とした状態になり、一定のコンセンサスが得られるまでには、まだかなりの時間がかかりそうな状況である。特に、昨今の研究環境の変化から、古典的な発がん系を用いた研究が極めて乏しく、細胞生物学の観点からは興味深い減少であっても、とりわけ放射線の晩発影響の中での意義付けがなかなかできない状況にある。今後、正常ヒト幹細胞を用いた発がん実験等、マウス個体による発がん実験を裏打ちできるヒト細胞の発がん系の確立が緊急に求められている。
 今回の学会では、放射線に対するゲノム安定性の維持におけるクロマチン高次構造の役割、というシンポジウムで講演を行った。我々は、放射線により誘発したDNA二重鎖切断を起因としたDNA損傷情報が、増幅されることによって細胞応答に十分な量を伝達していることを報告している。この増幅には、ATMを基点とした蛋白質リン酸化の連鎖反応が必要であるが、ATMの特異的阻害剤を用いた研究から、第一段階のリン酸化反応を必要とするステップから第二段階のリン酸化反応非依存的なステップへの変換があることを見いだした。今回の報告では、そのステップにヒストン蛋白質のメチル化が関わっていることを報告した。すでに、ヒストンH3のリジン79やヒストンH4のリジン20の恒常的なメチル化が53BP1のフォーカス形成に関わっていることが報告されているが、その具体的な関与の仕方は不明なままであった。今回、ヒストン蛋白質のメチル化およびアセチル化に関わる酵素を調べるために、複数の酵素に対する阻害剤を用いた網羅的な解析を行った。その結果、アセチル化に関しては、p300/CBPが、また、メチル化に関しては、新規メチル化酵素のG9aが関与していることがわかった。特に、G9aは、ユウクロマチンに存在するヒストンH3リジン9をジメチル化する酵素として、最近多方面で注目を集めている酵素であり、G9aが放射線照射により誘導されたDNA二重鎖切断に集積することや、G9aに対するshRNAを発現した細胞ではフォーカス形成に異常が見られることを考え合わせると、フォーカス形成、特に残存するフォーカス増幅の維持機構に関わる新しいクロマチン修飾として新たに同定される因子ということになる。今後、G9aによるジメチル化がどのような機構によりフォーカス維持に関わっているか注目される。
 米国でも、放射線関連の研究グループはその運営に苦慮していると聞くが、DOEによる低線量放射線研究プログラムや、PNNLにおけるシステム放射線生物学のプロジェクト等、大型の予算を伴うプログラムが着々とその成果を上げている。一方、国内ではこの関連分野での大規模な連携研究が乏しいことから、予算獲得に向けた戦略的な動きが必要であると思わざるを得ない。日本国内でも、六ヶ所村にある環境科学技術研究所の低線量・低線量率長期照射実験のように、世界に類を見ない研究を推進している研究拠点があることから、これら拠点を連携させる国内研究連携により、放射線医療科学の国際戦略拠点を確立すべく、さらに国外の拠点との連携を深めていく所存である。

 
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