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責任ある成熟国家としての日本の役割
―ランセット日本特集の目的― |
武見 敬三 先生
長崎大学客員教授、東海大学教授、(財)日本国際交流センター シニア・フェロー |
1993年世界銀行が「東アジアの奇跡」報告書のなかで日本を雁行型経済成長の先導役と位置づけた。既に、アジア経済のダイナミクスの担い手は日本のみならず中国、インド等複数の中進国により作り出されるようになった。そこで、経済分野に限らず21世紀における日本の新しい役割を考えてみたい。
日本は、男女ともに世界の中でトップ集団の健康な高齢化社会を築いている。復興から高度経済成長の時期にも健康な中産階級社会を目指し、社会の安定を実現し、自民党の長期政権もその基盤の上に成り立っていた。この時期に得た社会保障特に健康保障分野における我が国の経験の中には、21世紀において経済成長を享受しつつも高齢化や疾病構造の変化に直面している中進国をはじめとする多くの途上国においても有益なる政策上の知見が数多く含まれている。
この点に着目した英国の医学雑誌ランセット誌は、「日本はどの様にして健康社会を実現したのか?」との問いに答えるべく先進国で初めて特集を組んだのである。そしてこの問いに答えることが、先導的な成熟国家としての日本の新たな役割であり責任でもあることが認識される。
このランセット日本特集は6本の論文と8本のコメンタリーにより構成されているが、ここで得た研究チームの結論は、我が国が達成した健康社会の特徴は、一歩一歩改革を進める政策手法により実現した”Good Health at Low Cost with Equity”というものであった。
しかし、残念ながらその成功体験は我が国にとっては過去のものとなり、経済の低迷、財政赤字の深刻化、高齢化や医療技術の革新による支出増加、雇用関係の不安定化等様々な新たな要因により我が国の医療制度も抜本改革を余儀なくされるところまで追いつめられている。医療保険制度の統合や地域医療の在り方につき若干の提言をすることを考えている。 |
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