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生命に関するすべての情報はDNA(デオキシリボ核酸)といわれる遺伝子に書かれています。遺伝子がコンパクトに集まったものが染色体です。人(ヒト)の細胞は46本の染色体を持っています。
放射性物質(放射能)から出る放射線を大量に浴びますと、遺伝子が切れます。切れた遺伝子は、他の遺伝子に結合することもあります。これらの遺伝子の変化の多くは「異常」とみなされます。遺伝子は非常に小さいため、この異常を直接見ることはできませんが、染色体も切断したり結合したりするため、この異常は電子顕微鏡や特別な方法で見ることができます。放射線を浴びたことによって染色体異常が見られることは、遺伝子に異常があったことを意味します。
残念ながら、今のところすべての遺伝子の傷の有無を証明する確実な方法はありません。しかし、多くの場合、遺伝子に異常があったり、染色体異常を持った細胞は死にますので、異常な細胞はごく少数しか生き残りません。
精子あるいは卵子のいずれかに放射線による遺伝子の異常が生ずれば、受精して産まれた子供には遺伝子に異常があるわけです。放射線が子孫に悪い遺伝的影響をもたらすとすれば、精子または卵子への傷が原因です。
ところで、長崎、広島の被爆者の子供を対象とした染色体調査の結果では、遺伝的影響の増加を証明することはできませんでした。国連科学報告でも放射線の遺伝的影響については、子孫に伝える染色体異常の割合は変わらない、となっています。
マウスなどの動物では遺伝子の変化による放射線の遺伝的な影響が報告されていますが、被爆者の子供に見られるように、人では報告されていません。動物で放射線の遺伝的な影響が見られて、人では見られないことは大変不思議です。これは、現在の科学知識では十分説明できません。
もし、仮説として説明できるとしたら、動物は多産系ですから胎児に異常があっても出産しますが、人は大半は1人しか出産しませんので、完全な子供を産むようになっているのでしょう。もし、人の胎児に異常があれば自然流産によって、子孫として残さないのではないかと思います。その証拠として、自然流産した胎児の細胞を調べますと、多くの染色体異常が見られます。
実際に、被爆2世への遺伝的影響は長崎、広島では証明されていませんが、さらに研究が必要です。チェルノブイリやセミパラチンスクの被害の実態が今後明らかになれば、もっと詳しく子孫への影響を科学的に解明できるかも知れません。 |
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