放射線・放射性物質Q&A(1)

はじめに

 2011年3月の東日本大震災、その後の東京電力福島第一原子力発電所の事故以来、「放射線」のことを考えない日はなかった、という方もたくさんいらっしゃると思います。確かに放射線は見えませんし、においもなく、音もしませんので、どうしても不安を感じることが多いことも事実です。
 本冊子は、「放射線と健康」について、福島県の皆さんが感じている疑問を、できるだけわかりやすい言葉でまとめたものです。なるべく生活に密着した問題について回答を作成しましたので、今後の生活の役に立てていただければ幸いです。

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
高村 昇

CONTENTS

放射性物質と放射線って何が違うの

「放射性物質」「放射能」「放射線」など、さまざまな言葉が毎日のように新聞記事の中で使われています。何となくは分かるのですが、それぞれにどのような性質があるのかなどをあらためて教えて下さい。

放射線を出す物質が放射性物質、放射線の強さを示すのが放射能

 放射性ヨウ素や放射性セシウムのように、放射線を出す物質が「放射性物質」です。
放射性物質が放射線を出すエネルギーを表わすのが「放射能」です。放射能の単位は、ベクレル(Bq)です。食品中の放射能の基準値を表す際、ベクレル/キログラム(Bq/kg)という単位が使われていますが、これは食品1キログラム当たり、どのくらいの放射能が含まれているかを示すものです。

 放射性物質から出る放射線には、アルファ線、ベータ線のような小さな粒子のほか、ガンマ線やエックス線のように波形を持つものがありますが、この放射線が人体与える影響を表す単位がシーベルト(Sv)です。

 1ミリシーベルト、1マイクロシーベルトは、それぞれ1シーベルトの千分の1、百万分の1です。自然界に存在している天然の放射性物質でも、人工的に作られた放射性物質でも、出す放射線の種類は同じです。原発事故で飛散したような人工的に作られた放射性物質だからといって特別な放射線を出すわけではありません。

 一方、放射線は種類ごとに透過する力が異なることが知られています。例えばアルファ線は紙1枚で止める(遮蔽する)ことができますが、ベータ線は紙で止められず、薄いアルミニウムで止められます。病院でエックス線検査をする医師や放射線技師が、鉛の入ったエプロンをつけていますが、エックス線を鉛で遮蔽し、放射線被ばくを最低限に抑える目的で着用しているものです。

放射性物質の半減期って何ですか

放射線の問題で、よく「半減期」という言葉を聞きますが、具体的には、どんな放射性物質がどのような状態になることを指すのでしょうか。そもそも、なぜ放射性物質は放射線を出すのかも教えて下さい。

放射性物質が変化し半減するまでの時間

 「半減期」とは読んで字のごとく、「半分に減るまでの時間」です。具体的には放射性ヨウ素や放射性セシウムなどの放射性物質が半分になるまでの時間を言います。

 放射性物質は不安定な構造をしており、安定な物質になろうとする過程の中で放射線を出します。例えば放射性ヨウ素の一つである「ヨウ素131」はベータ線、ガンマ線などの放射線を出し、最終的には「キセノン」という物質に変わります。キセノンはガス状の物質で、もう放射線を出すことはありません。半減期が約8日のヨウ素131は、放射線を出しながら約8日間で半分がキセノンに変わります。つまり半減期は放射性物質が放射線を出し、安定な物質になるまでにかかる時間ということができます。 これを「物理学的半減期」と言います。事故から1年以上がたち、県内で放射性ヨウ素が検出されることはありません。

 一方、現在問題になっている放射性セシウムの半減期は、「セシウム134」で約2年、「セシウム137」では約30年です。ただ、体の中に放射性セシウムが入った場合、体内のセシウムの量が半分になるのに30年かかるわけではなく、小児であれば2カ月程度、大人でも3カ月程度で体内のセシウムの量は半分になります。人間の体が常に代謝し、セシウムが体外に排出されるためです。これを「生物学的半減期」と呼び、「物理学的半減期」とは区別をして考える必要があります。

自然界にある放射線とは

東京電力福島第一原発事故などで飛散した放射性物質によるものとは別に、自然界には放射線が存在していると聞いたことがあります。どのような種類があり、どの程度の放射線量なのか教えてください。

世界の大地に一定量存在、年10ミリシーベルト被ばくの地域も

 私たちが地球上で生活していると、宇宙から降り注ぐ放射線(宇宙放射線)によって年間約0.3ミリシーベルトの外部被ばくをします。

 さらに原発事故などとは関係なく世界中で大地には一定量の放射性物質が含まれており、それから出る放射線で外部被ばくをします。同様に、どこに行っても、日常食べている水や食物にはごく微量の放射性物質が含まれているため、食事によって内部被ばくをします。例えば、緑黄色野菜やバナナ、ジャガイモなどにはカリウムという物質が豊富に含まれていますが、このカリウムの中には「カリウム40」という放射性物質が極めて微量ながら入っているのです。

 このように、自然から受ける放射線(自然放射線)は日本では年間約1.5ミリシーベルトとされていますが、世界平均では約2.4ミリシーベルトとなります。

 その一方で、世界では、環境中の放射線量が比較的高い場所が存在することが知られています。例えばインド南部のケララ州海岸に面した地域は、海中から打ち上げられる天然の放射性物質の影響で放射線量が比較的高いといわれています。

 この地域では人によっては年間10ミリシーベルト以上は被ばくしています。単純に考えると、ここで10年間生活した場合、100ミリシーベルト被ばくすることになります。しかし、この地域で調査をした結果、住民の白血病やがんの発生率は、インドの他の地域と比較しても変わらないことが分かっています。

原爆と原発事故でどんな違いが

広島、長崎の原子爆弾(原爆)では多くの犠牲者が出ました。今回の東京電力福島第一原発事故でも大量の放射性物質が放出されました。原爆のような被害が出ないか心配です。原爆と原発事故でどんな違いがあるのでしょうか。

増加疾患の種類が異なる。外部か内部被ばくに違い

 原爆による放射線の影響は主に外部被ばくによるものです。原爆は核分裂で一瞬にして大量の放射線を放出し、これによって広島、長崎では多くの被爆者が高い線量の外部被ばくによる急性放射線障害や、数年から数10年後に起こる白血病や固形がんといった晩発性障害を発症しました。

 一方、チェルノブイリ原発事故では大量に放出された放射性物質、特に放射性ヨウ素によって周辺住民の内部被ばくを引き起こしました。放射性ヨウ素は特に甲状腺に集まりやすいため、汚染された牛乳などを摂取した子どもたちを中心に、事故の数年後から甲状腺がんの発症が増加しました。

 しかし、チェルノブイリでは白血病や甲状腺がん以外の固形がんの増加はこれまでのところ、認められていません。今後も継続して調査していく必要がありますが、広島、長崎とチェルノブイリで増加した疾患が異なるのは、外部被ばくと内部被ばくの違いが背景にあると考えられます。

 東京電力福島第一原発事故で放出された放射性ヨウ素、放射性セシウムも、住民にとって問題となるのは内部被ばくのリスクということになります。このため、チェルノブイリ原発事故の教訓を踏まえ、日本では事故直後から放射性ヨウ素や放射性セシウムに対して「暫定基準値」を設定して、この基準を上回る食品、水に対して出荷制限、摂取制限をかけ、汚染した食事を摂取することによる内部被ばくを低く抑えようとしています。

被ばくの影響子どもと大人でどう違う

放射線被ばくによる影響では子どもの方が大人よりも大きいと聞いたことがあります。実際には子どもと大人ではどのような違いがあるのでしょうか。過去の例から具体的な症状なども教えてください。

小児は放射線感受性高い。基準設けリスク最低限に

 チェルノブイリ原発事故では、大量に放出された放射性物質、特に放射性ヨウ素によって周辺住民の内部被ばくを引き起こし、事故の数年後から甲状腺がんが増えました。チェルノブイリで発生した甲状腺がんは、特に事故発生当時、小児だった世代に多発したことが知られています。

 一般的に、放射線の影響は、活発に分裂している細胞、組織や個体に、より影響が出やすいことが知られています。これを放射線感受性といいます。

 骨髄は骨の中にあって活発に細胞分裂をしながら赤血球や白血球などの血液細胞を作っている組織です。広島・長崎の原爆被爆者では骨髄が高い線量の外部被ばくをしたために血液のがんに当たる「白血病」が増えました。

 このように骨髄は放射性感受性が高い臓器といえます。しかし、現在の県内の居住環境の空間線量率では、小児でも外部被ばくのリスクはまず考えられません。一方、チェルノブイリ原発事故の発生当時、小児だった世代に甲状腺がんが多発しました。これは大人に比べて小児の方が放射線に対する感受性が高いことが原因の一つと考えられます。

 県内では2011年3月の原発事故直後から放射性ヨウ素や放射性セシウムについて「暫定基準値」を設定し、基準を上回る食品、水に対して出荷や摂取を制限しました。チェルノブイリの経験を踏まえ、特に放射線感受性の高い小児の内部被ばくを最低限に抑えることを主眼とした措置です。

ホールボディーカウンターの仕組みは

県がホールボディーカウンターで内部被ばくの測定を進めていますが、独自に導入して住民の測定をする市町村も増えています。線量計などと、どのような違いがあるのでしょうか。測定の仕組みを教えてください。

体内の物質濃度を測定、数値基に被ばく量算出

 ポケット線量計やバッジ式積算線量計は外部被ばく線量を測定することができますが、内部被ばく線量は測定できません。内部被ばく線量を評価する手段の一つが、ホールボディーカウンターです。
 放射性物質の種類によって放射線の波長が違うことを利用し、体内の放射性物質の濃度を測定し、それを基に内部被ばく線量を測定する機器です。

 放射性セシウムが体内に入ると、ベータ線とガンマ線を出します。このガンマ線が体を透過し、体外に出てくる量を測定します。これを基に体内の放射性セシウム濃度を測定した上で、その数値から内部被ばく線量を算定します。

 2011年3月の事故以来、県内ではホールボディーカウンターの導入が進み、順次測定が行われていますが、これまでの測定結果を見ると、体内の放射性セシウム濃度はかなり低く、実際の内部被ばく線量も健康に影響を及ぼすとは考えにくい値です。事故直後から暫定基準値を設定して汚染された食物の摂取を制限してきたため、内部被ばくが低減されていることが理由と考えられます。

 ホールボディーカウンターは他の医療機器や線量計と同様、機種によって若干精度が違うため、結果にばらつきが出る可能性があり、最近問題となっています。しかし、ばらつきが出る可能性があるのは極めて低い濃度の放射性物質を測定する場合です。健康に影響が出るレベルの線量を見逃すようなことはありません。

小学生らのバッジ式積算線量計測定

県内では市町村が小中学生や幼児、妊婦らにバッジ式積算線量計を配布し、線量計を着けた子どもの姿を目にします。各家庭に測定結果の通知が届いているようですが、測定にはどのような意味があるのでしょうか。

個人の外部被ばく示す。県、市町村の助言が必要

 東京電力福島第一原発事故直後から、県内の各市町村の空間線量、つまり空気中の放射線量が公表されてきましたが、この空間線量は必ずしも個人の外部被ばく線量を正確に反映するものではありません。
 なぜかというと、個人の生活様式で外にいる時間が多いのか、普段いる建物が木造なのか、鉄筋コンクリートなのかなどの条件が異なり、それによって外部被ばく線量が変わってくるためです。

 バッジ式積算線量計は個人が受けた放射線量を測定することができます。この場合、すぐに被ばく線量を見ることはできませんが、回収して専門機関でデータを解析することで、対象者がバッジを着けている期間に外部被ばくをした線量の合計を確認することができます。

 既に結果が届いた地域があると思いますが、生活している地域の空間線量を加えていった数値(累積線量)に比べると、測定された個人被ばく線量はかなり低めの数字になっているのではないかと思います。これは、先ほど述べたように家や学校などの建物の中にいる時などには、放射線がある程度遮られることが原因の一つです。これを遮蔽効果といいます。

 今後は、県や市町村が測定結果に基づき、住民の生活面に関してアドバイスをしていく必要があります。いずれにしても、これまでの県内の空間線量の状況などを見れば、現時点では一般住民の外部被ばくの放射線量は、かなり低い値であると考えられます。

レントゲン検査を受け続けて大丈夫?

東京電力福島第一原発事故による放射線問題が起きてから、病院で受けるレントゲン写真の検査なども放射線を浴びてしまうのではないかと心配になってしまいます。受け続けても大丈夫なのでしょうか。

医療被ばくの不利益より診断、治療の利益が上回る

 医療の現場では、放射線は診断だけでなく、治療にも幅広く応用されています。誰もが一度は受けたことがあるレントゲン写真(エックス線撮影)をはじめとして、CT検査やPET検査など、現代の医療では放射線はなくてはならない存在です。

 しかし、これらの検査を受けることで、放射線被ばく(医療被ばく)をすることも事実。例えば、胸のエックス線撮影を1回受けると、0.05~0.1ミリシーベルト(50~100マイクロシーベルト)の被ばくをします。CT検査を1回受けると場所にもよりますが、だいたい5~10ミリシーベルト(5000~10000マイクロシーベルト)の被ばくになります。

 国際的な放射線防護の基準をつくる国際放射線防護委員会(ICRP)は「医療被ばくによる線量の上限を定めるのは適切ではない」と勧告しています。なぜなら医療で放射線を利用することによる患者の利益が、被ばくによる不利益を上回ることを前提としているからです。

 その一方で例えば、肺がんの治療で放射線治療を行う際、高い線量の放射線を被ばくすることによって肺炎( 放射線肺炎)が起こることもあります。だから、放射線による検査や治療をする医師側が、その検査や治療を受ける人に本当に利益があるのか、熟慮する必要があることは当然です。

 放射線による検査や治療を受ける際、疑問があれば、目的や効果、どのくらいの線量を被ばくするかなどを医師や看護師に聞いてみるとよいでしょう。

放射性ヨウ素の影響は

チェルノブイリ原発事故の発生後 、原発の周辺住民の間で甲状腺がんの発生が増えたという話を聞きます。東京電力福島第一原発事故でも、甲状腺がんを引き起こす放射性ヨウ素が飛び散ったそうですが、大丈夫ですか。

食物や飲み物を摂取制限、甲状腺がん増加考えにくい

 チェルノブイリ原発事故の発生後には大量の放射性物質が広範囲に放出されました。放射性物質は、主に放射性ヨウ素や放射性セシウムであったことが分かっています。このうち特に放射性ヨウ素は体内に入ると、甲状腺に集まりやすい性質があります。甲状腺は甲状腺ホルモンというホルモンを分泌する臓器で、甲状腺ホルモンがヨウ素から合成されるためです。

 チェルノブイリ原発事故では、甲状腺の中に入った放射性ヨウ素から放射線(ベータ線やガンマ線)が出ることで甲状腺が被ばくしました。この内部被ばくによってチェルノブイリ原発周辺の住民間で甲状腺がんが増加したと考えられています。

 原発事故後、チェルノブイリでは放射性ヨウ素によって汚染された食物や飲み物(特に牛乳)に対し摂取制限や流通制限をしなかったため、これらを多量に食べたり飲んだりした周辺住民の内部被ばくを引き起こしたことが分かっています。

 2011年3月の東日本大震災による東京電力福島第一原発事故の発生直後、日本では放射性ヨウ素や放射性セシウムに対して「暫定基準値」を設定しました。この基準を上回る食品や、水に対して出荷制限、摂取制限をかけました。

 これはチェルノブイリの経験を踏まえ、汚染した食事を摂取することによる内部被ばくをできるだけ低く抑える目的の措置です。このため、県内ではチェルノブイリと違って、甲状腺がんの増加は考えにくいとみられています。

生まれてくる子どもに放射線影響は

空間放射線量が平常時よりも高い県内で、これまで通りに妊娠、出産をしても大丈夫なのか、とても不安です。生まれてくる子どもに放射線の影響は出ないのでしょうか。また、すでに妊娠している場合はいかがですか。

現在の線量では問題なし。遺伝的影響も報告されず

 広島や長崎の原爆被爆者の方のケースでは、妊娠初期に高い線量の被ばくをした場合、小頭症の発症例が増えたことが報告されています。しかし、実際に発症したのは200ミリグレイを超えるようなとても高い線量を被ばくした胎児であり、現在の県内の状況とは全く異なります。

 放射線についての国際的なガイドラインを定めた国際放射線防護委員会(ICRP)が出している勧告には以下のようなものがあります。「放射線被ばくによる妊娠中絶について、胎児への100ミリグレイ未満の線量は、妊娠中絶の理由と考えるべきではない」

 これは広島や長崎の原爆被爆者の方の調査を基に作られた勧告です。100ミリグレイを下回る被ばくであれば、生まれてくる赤ちゃんの心配はいらないということになります。事故発生から現在に至るまで、県内にお住まいのお母さんのおなかの中にいる赤ちゃんが100ミリグレイを上回る被ばくをするとは考えられません。

 また、これから生まれるお子さんについて、遺伝的な影響を懸念されるかもしれませんが、広島・長崎の原爆被爆者の方の遺伝的影響( 二世調査 )をみても、がんや白血病をはじめ病気が増えたという報告はありません。まして県内の現在の放射線量はずっと低く、安心して妊娠、出産をしていただければと思います。

※ミリグレイ…放射線の吸収線量。ヨウ素131やセシウム137が出す放射線(β線、γ線)の場合、1ミリグレイは1ミリシーベルトとなる。

雪の季節、生活やスポーツに影響は

雪が降ったり、積もったりすることで、放射性物質が生活に影響をを及ぼすことはないのでしょうか。雪の季節はスキーなどのウインタースポーツを楽しんでいます。健康への影響の有無を教えてください。

放射線を出す物質が放射性物質、放射線の強さを示すのが放射能

 現在、空気中に存在する放射性物質はほぼゼロです。事故以来、毎日、県内の空間放射線量が発表されていますが、これは地表や建物などに付着した放射性物質(ほとんどは放射性セシウム)から出される放射線(ガンマ線)を測定しています。このため、現時点で空から降ってくる雨や雪にも放射性物質は含まれていません。雪が体に付いたり、雪かきをしても被ばくの心配はありません。

 雪が積もれば放射性物質が付着した地面を雪(水)で、遮蔽することにもなります。少なくとも積雪で空間中の放射線が上がることは考えにくいでしょう。

 ウインタースポーツをする際、放射線量を実際に測定することも大切ですが、現在の状況ではスキーなどを楽しむことによる放射線被ばくを過度に心配することは無用です。

 一方で、暖かくなって雪が解け出した際、水と一緒に、土に付着していた放射性セシウムが川に流れ込むなどして移動し、一時的に川の水などで放射性セシウムの濃度が少し変化する可能性もあります。引き続きモニタリングの結果に注意を払っていく必要があります。

 また、落ち葉もみられますが、ほとんどが原発事故の発生後に木に付いた葉であると考えられ、その場合は放射性セシウムは付着していません。

 発生当時から木に付いていた葉には付着している可能性もありますが、落ち葉掃除などで触れた後に手足を洗い流せば大丈夫です。

子どもの甲状腺数値の異常

県外ののNPOなどが本県の子ども130人を対象に実施した調査で、10人の甲状腺機能の数値に異常がみられたーとの報道がありました。この結果を、どのように受け止めればよいのでしょうか。

通常の検査で同様の結果も。「基本台帳」で検査継続を

 報道によると、2011年7月から8月にかけて福島県から避難し、長野県茅野市に短期滞在していたゼロ歳~16歳の子ども130人が血液検査を受けました。その結果、2人は甲状腺組織から漏れ出た「サイログロブリン」というタンパク質の濃度がやや高く、7人は甲状腺ホルモンの分泌量を調節する「甲状腺刺激ホルモン」が基準値をやや上回り、1人は「甲状腺ホルモン」が基準値をやや下回ったとのことでした。

 サイログロブリンは、甲状腺に腫瘍がある場合に確認されることがあるのですが、それ以外の病気でも確認され、がんに特有な指標ではありません。

 甲状腺刺激ホルモンは甲状腺機能が低下するときに逆に上昇することが多いのですが、一般成人でも基準値を超える人が2割程度確認され、そのうち実際に治療の対象となるのはかなり高い数値を示す例に限られます。甲状腺ホルモンが低い場合も実際に治療が必要なのは、かなり低いケースです。
 通常の健康診断で甲状腺検査をしても、放射線被ばくの有無に関係なく、今回の結果と同様になると考えられます。

 一般に、血液検査だけで甲状腺の疾患を最終的に診断するには限界があり、超音波検査などを組み合わせます。現在、県内では県民健康管理調査の一環で18歳以下を対象に甲状腺超音波検査を行っています。長きにわたる甲状腺管理の基本台帳をつくる意味でも、検査を受けることをお勧めします。

おわりに

 2011年3月11日の東日本大震災、そして福島第一原子力発電所の事故から 1年がたちました。震災によって被災された方、そして事故によって避難を余儀なくされた多くの方に、あらためてお見舞いを申し上げます。事故以来、私は「福島県放射線健康リスク管理アドバイザー」として福島県下で住民の方を対象に「放射線と健康」についての講演を行ってきました。講演会に来られる方は真剣そのもので、一時間余りの私の話のあとには、それ以上の質問が来ることもありました。質問は初期のころから現在に至るまでさまざまのものがありましたが、いずれも県民一人一人の生活に密着したもので、放射線と健康についての正しい情報を伝えることの大切さをしばしば痛感していました。

 そのような折、福島民報社から新聞紙上で放射線と健康についてのQ&Aを連載することを依頼され、不慣れながらも毎週執筆することになりました。今回出版されることになった本冊子は福島民報紙上に掲載したものに、一部新たな質問を加筆したものです。掲載された時期に話題になった事項について取り上げることも多々あったのですが、少しでも県民の方に放射線についての正しい知識を得ていただければ、と思い、今回小冊子として発刊することになりました。皆様方の今後の生活に少しでも役に立てれば、と考えています。

 最後になりましたが、新聞連載の場を提供いただいた福島民報社、出版にあたって御協力いただいた長崎大学、一般社団法人国立大学協会(震災復興・日本再生支援事業)、それに長崎・ヒバクシャ医療国際協力会に感謝申し上げたいと思います。

平成24年3月

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
高村 昇

高村 昇 略歴

たかむら・のぼる(1968年7月11日生、43歳)
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
国際保健医療福祉学研究分野(原研国際)・教授
専門分野:
国際放射線保健学、放射線影響学、分子疫学、衛生学、内分泌学、内科

学歴・職歴

1993年3月 長崎大学医学部卒業
長崎大学医学部大学院医学研究科卒業
1997年6月~2001年10月 長崎大学医学部原爆後障害医療研究施設国際放射線保健部門助手
1999年6月~2000年7月 世界保健機関本部(スイス・ジュネーブ)技術アドバイザー
2001年11月~2003年2月 長崎大学医学部社会医学講座講師
2003年3月 長崎大学医歯薬学総合研究科公衆衛生学分野准教授
2008年4月 現職
2010年1月~2010年9月 世界保健機関本部(WHO)テクニカルオフィサー

所属学会

日本内科学会、日本内分泌学会、日本衛生学会、日本放射線影響学会

社会活動

  • 世界保健機関本部技術アドバイザー
  • 長崎ヒバクシャ医療国際協力会運営部会委員(副部会長)
  • 長崎県建築審査会委員
  • 福島県放射線健康リスク管理アドバイザー
  • 財団法人放射線影響研究疫学部 顧問、同 臨床研究部 顧問 等

受賞歴

  • ゴメリ医科大学(ベラルーシ共和国)名誉教授、2005年度
  • 角尾学術賞「国際ヒバクシャ医療支援と分子疫学的研究および地域保健への展開」2005年度
  • ベラルーシ医科大学(ベラルーシ共和国)名誉博士号、2006年度
  • 東カザフスタン州(カザフスタン共和国)保健局表彰、2006年度