健康リスク学研究分野(原研リスク)

ごあいさつ
教授 ジャック ロシャール
 チェルノブイリや福島のような大規模な放射能事故は、社会に複雑な影響をもたらします。行政関係者や専門家は、緊急時の対応や復旧過程において放射線リスクの効果的管理の難題に直面し、技術的対応を求められることになります。この対応は過去の放射能事故における経験に主に基づくものであり、人類や環境への放射線の影響に関する科学的知識を必要とします。放射能事故の影響を受ける地域、特に汚染された地域の住民は突然複雑な状況に置かれることになり、その状況下で人々は、放射線の健康における影響などの疑問や不安を持つようになります。日々の生活においても人々の平穏な状況や、「共に暮らす」生活の形態も一変してしまいます。健康リスク学研究分野の目的は、放射線の健康リスクから人々を守ることのみならず、一定の生活水準や暮らしを含む持続可能な生活状況を人々に取り戻す手伝いをすることであると考えております。

 放射線に対する不安を克服するためには、放射能の影響を受けた地域に留まることを選択した人々とともに状況管理をすることが重要であると、チェルノブイリや福島の経験によって私達は学びました。そのためには行政関係者や専門家、特に医療分野の専門家が地域の人々と協力し、彼らの生活の復旧や放射線への不安に対して対応することが求められています。このような複雑な状況下では行政関係者と専門家と住民の間での意思疎通が必要であるのは言うまでもありませんが、その意思疎通が大変困難になってしまい、人々の間、また関係者の間で不信感が醸成されてしまいます。

 ではどのように科学的知識、倫理的価値観、放射線防御の根本的考え方を、事故直後の対応やその後の復旧期に活用したらいいのでしょうか。また、事故の影響を受けた住民をどのように保護し、彼らの事故後の生活の復旧を図るべきなのでしょうか。放射線リスクや事故後の状況について、関係者間のコミュニケーションはどのようなものが求められるのでしょうか。

 長い間住民や行政関係者と共に考え行動してきた経験をふまえ、これらの疑問に適切に答えていくことが健康リスク学研究分野の主な目的です。そのために放射線防御の科学的見地と環境学、社会学的見地を結びつけた学際的なアプローチを活用していくことが重要と考えます。

教授 ジャック ロシャール

福島県川内村での実習風景 福島県川内村での実習風景

福島県川内村での実習風景