国内外の関連機関とともに、福島復興支援に役立つ
共同利用・共同研究拠点事業を推進しています。
本研究所(原研)は「原爆被爆者の後障害の治療並びに発症予防及び放射線の人体への影響に関する総合的基礎研究」を目的に1962年に設立されて以来、原爆被爆者医療・疫学研究、旧ソ連邦によるカザフスタン共和国セミパラチンスク核実験施設周囲地域やチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故後の国際医療協力、東京電力福島第一原発事故後対応で実績を積んできました。2013年に大学附置研究所に改組され、2016年からは広島大学原爆放射線医科学研究所と福島県立大学ふくしま国際科学医療センターと共に「放射線災害・医科学研究拠点」のネットワーク(文部科学省認定)を形成し、国内外の関連機関とともに、福島復興支援に役立つ共同利用・共同研究拠点事業を推進しています。
現在の原研は、「放射線リスク制御部門」、「細胞機能解析部門」、「ゲノム機能解析部門」、「原爆・ヒバクシャ医療部門」と「放射線・環境 健康影響共同研究推進センター」の4部門とセンターからなっていて、ゲノムから細胞・組織、個体レベルの基礎医学、臨床医学、社会医学と幅の広い学術領域からの教職員・研究者が在籍しています。放射線健康影響やリスク制御研究は学際的であり、現代社会と放射線の共存に必要な医学的情報を発信するための、本学独自の研究教育組織となります。長崎大学医歯薬学総合研究科の中で「放射線医療科学専攻」、金沢大学・千葉大学との3大学共同大学院「先進予防医学共同専攻」、福島県立医科大学との2大学共同大学院「災害・被ばく医療科学共同専攻」の3専攻を主担当していて、多くの学生が専門的知識の獲得や研究に励んでいます。中央アジア、中国、東南アジア等から毎年多数の留学生も入学してきており、放射線医療や災害予防・リスク管理学の専門家として国際社会での活躍が期待されるところです。
2025年には被爆80周年を迎えます。原研として、被爆者健康影響研究を発展的に継続し、次世代に引き継ぐ環境を整備していく必要を感じています。被爆者研究から得られた成果はチョルノービリ原発事故、さらに福島原発事故後対応に役立てられました。これらの研究成果を人類共通のかけがえのない遺産として引き継ぐと同時に、放射線の安全利用や被ばく事故等への対応に応用していくことが責務と考えます。臨床医学、特に放射線治療や核医学、緊急被ばく医療や再生医療、希少疾患診断、甲状腺癌治療に関する探索研究を推進し、若い研究医が希望を持って学び、働ける研究所を目指したいと思います。同時に原研の強みであるリスクコミュニュケーション学などの社会医学系の知見を社会実装するための枠組みを構築し、放射線にかかわる災害予防や安全の担保に寄与する教育研究プログラムを提供すべく考えていきます。
2022年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻は、あってはならない核の緊張感を国際社会に突きつけています。原子爆弾被災の惨禍から復興し、核兵器廃絶の理想を掲げる本学の、アカデミアとしてのミッションとして、放射線災害予防や世界的にリスク管理を担保する枠組みを構築し、さらに国際社会での核兵器廃絶に向かう政策を提言できる人材の育成が挙げられます。本学が推進するPlanetary Healthの理念を理解し、医学のみならず学際複合的に放射線に関する諸問題について考察を深め、将来を見据えた放射線に対する社会のあるべき最適な姿を模索しつつ、職員一同ミッションに当たってまいります。
原爆後障害医療研究所 所長中島 正洋